年越しは音楽とお酒と共に

2006年01月04日

 近所に、有名なお蕎麦屋さんがある。
 大晦日は、昼間から日が落ちても、寒風吹きすさぶ中、店の前に人の列ができていた。
 近くにはほかにもお蕎麦屋さんはたくさんあるのだけれど。
 確かにここはおいしいけれど、蕎麦は蕎麦。しかもここの店は高いし、量はちょろっとだし……
 こんなに寒い中並んでまで食べたいかなあ……と思ってしまうけれど、少なからぬ方々が、有名店で年越し蕎麦を食するのを、年末の楽しみにしている、ということなのだろう。
 
 では、私の楽しみは何か、というと、音楽会。
 これも、ほかの方からは、何も寒い中を出かけて行かなくても、暖かい家の中で紅白でも見ていればいいのに……と思われるかもしれない。
 まさに人は好きずき、ということ。
 
 昨年同様、岩城宏之さんのベートーヴェン全曲演奏会のチケットを買ってあったが、年末にパソコンが壊れた余波もあって、すべての仕事が遅れに遅れ、いくつかは越年ということに。いつもは二日がかりでやる煮物も、今回は31日だけ。しかも、年賀状も書いてない……そのうえ、この日は予定外の大寝坊。
 というわけで、ベートーヴェンも1番から全てというわけにはいかず、ホールに駆け込んだのは、6番が始まる直前だった。
 その6番のなんと軽やかで美しいこと!
 私の大好きな7番、岩城さんのもっともお気に入りの8番、そしてフィナーレはもちろん第九。
 間にトークが2回入った。一度は岩城さんと作曲家の三枝成彰さん、二度目は金子建志と三枝さん。岩城さんは、第九はあまりお好きじゃないらしいのですが、そういうことも率直におっしゃるところに、誠実なお人柄がにじみ出ている。
 8月に肺ガンの手術をされた後には、相当につらそうだったが、病み上がりをまったく感じさせない(1番から聞いていた友人によれば、最初は弱々しかったのが、尻上がりに調子を上げていったそう。この間の演奏会でも同様だったので、これが岩城さんの最近のパターンなのかも)。
 かつての岩城さんのエネルギッシュな指揮ぶり(私はテレビで見ただけ)を知っている方にすれば、別人のような省エネ指揮法ではあっても、岩城さんに言わせれば、それができるようになったからこそ、一晩でベートーヴェンを全曲やろうという一見無謀なことも可能になったのだそう。「前のようなやり方では、最後までもたない。でも、もっと年をとったら体力的にもたない。だから、僕は今が旬なの」と前年の全曲コンサートの前におっしゃっていた。その旬は、まだまだ続いているよう。
 岩城さんを見ていると、本当に生きる勇気みたいなものを与えられた気持ちになる。
 それにしても、このオーケストラ、すごくうまい!
 N響の有志を中心に、新日本フィルのオーボエの古部さんやアンサンブル金沢のクラリネット遠藤さんなど、すばらしいオーケストラの首席クラスが集まっている。弦はもちろん、ホルンとか木管楽器とかが、とてもきれい。安心して、音楽に身をゆだねていられる信頼感がある。ひょっとしたら、このイワキ・オケは日本一うまいオーケストラが、かもしれない……
 第九のソリストは、バリトン福島明也さん、テノール佐野成宏さん、アルト坂本朱さん、ソプラノ釜洞祐子さん。最近の第九は、合唱団は最初からオーケストラの後ろに待機し、ソリストが第3楽章の前に舞台に入ってくる形がほとんど。それだと拍手が入ったりして音楽がとぎれるのを嫌ってか、チョン・ミョンフン様は2楽章の演奏中に入れするものの、最初からソリストも舞台上でスタンバイという演奏会は近年、見ていないような気がする。
 でも、この日は最初からソリストも舞台上。1楽章から4楽章の途中まで、小一時間ず〜っと黙っていて、第1声を発するバリトンってすごく大変そう。で、その福島さん、出番が近づくと、合唱団の誰よりも早く、決然と立ち上がった。まさに「決然と」という言葉が似合うくらい、その動作は凛々しく見えた。
 そして、第一声。「オ〜、フロイデ〜」
 決まった! 福島さん、カッコイイ!!
 ほかのソリストの方々も、合唱も、出過ぎず引っ込みすぎず、オーケストラと響き合って、すばらしい音の世界を作り出していた。
 満足!
 
 会場では、田苑なる焼酎の試飲をやっていた。なんと、ベートーヴェンの第6番を聞かせながら作っているのだそう。
 でも、小さな小さなちいさなプラスチックカップ(養命酒についているカップより小さい)に氷を入れて、肝心の焼酎はなめるくらい。たしかにおいしかったけど。
 友人と、小声で「けっち〜」などと罰当たりなことを言っていたが……
 帰るときに、なんと観客全員に「田苑」の一号瓶がおみやげとして渡された。
 実は、実に太っ腹〜な会社だった。ご注文はこちらからどうぞ。(会社のホームページを開くと、いきなり音楽が流れてきますのでご注意を)
 http://www.denen-shuzo.co.jp/index2.html
 
 音楽会の後は、我が家まで友人たちと移動。4人でワインが4本半も空いた。
 最近、朝の番組に出るために、早寝早起きモードになっている私としては、久々の寝坊&夜更かし!
 
 
 元日は、年賀状を取ってから、友人に車を借りて、実家へ。
 今の住まいは、賃貸の住人は駐車場が借りられないので、以前乗っていたレガシィは友人に譲った。で、その友人から借りて、久しぶりのドライブ。
 父がとっておきの久保田万寿を出してきたので、またまた飲んでしまった。


 そして7時からは、マリス・ヤンソンス様指揮のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート。(写真は昨年秋の来日時の記者会見で)
 曲目は、ヤンソンス様が3ヶ月かけて800曲以上の中から選んだそうで、モーツァルト・イヤーを意識したプログラムでした。「フィガロの結婚」序曲のほか、「魔笛」や「ドン・ジョバンニ」の有名なメロディがたくさん入った(というより、それをつないだメドレーみたいな)曲だとか、全部で3曲モーツァルト絡みがあった。
 どの曲も楽しくて、聞いていてわくわくわくわく……
 ポルカ「電話」では、曲の最後の方で、ヤンソンス様のポケットの携帯が鳴り響く、というパフォーマンスも。きまじめなヤンソンス様は、あんまりこの手の出し物って得意じゃなさそう。携帯と格闘して、そのあとちょっとモジモジしている姿は、失礼ながら、なんともかわいらしく、ほほえましかった。きっと、演出の担当者に「どうしてもやって下さい」と言われて、気配りのヤンソンス様としては断れなかったのでしょうね。
 「山賊のギャロップ」では、銃をぶっ放すパフォーマンスも。こちらの方は、楽器みたいなもので、楽しそうだった。
 新年の挨拶では、音楽は「心の栄養」で、とても大事な価値の一つだということをおっしゃっていた。本当にそう思う。
 とりわけ、「正義と邪悪」「敵と味方」といった二元論的な価値観に政治が支配されがちな今の世の中では、様々な価値観や要素が混じり合って成り立つ音楽や演劇や絵画や彫刻といった芸術は、なおいっそう必要とされているような気がする。
 昨年は、たしかNHKが衛星だかハイビジョンだかで全部生中継し、地上波では後半しかやらなかったので、実家の居間のテレビでは前半が見られず、悔しい思いをした。何のために受信料払ってるんじゃ〜という感じ。でも今回は前後半とも教育テレビでやったのは、大変よろしい。
 

 3日には戻ってきて、NHKニューイヤー・オペラコンサートへ。
 最大のお目当ては、もちろん福井敬さん
 十八番の「トゥーランドット」の「だれも寝てはならぬ」を歌い、その後は大村博美さんらと第一幕の最後の場面を。
 新年早々、福井さんの輝かしい声を聞くことができて、幸せ!
(写真は昨年10月の琵琶湖『スティッフェリオ』の時のもの)
 さすが福井さん、この日誰よりも大きく長い拍手をもらっていた。
 ほかに、望月哲也さんは「愛の妙薬」のネモリーノのアリア「人知れぬ涙」を、後半の「カルメン」ハイライトでは、福島明也さんがエスカミーリョに扮しての「闘牛士の歌」を聞くことができた。望月さんの声は本当に品があって、聞くだけで心が浄められるよう。福島さんは、衣装も楽しかった。今回のエスカミーリョのテーマカラーはピンクだったみたいで、長靴下もピンク。かっこいい闘牛士というより、ちょっとお茶目でコミカルな感じ。
 前半は、日本のトップの歌手たちが、それぞれの得意とする歌を歌っていたので、すごく聴き応えがあったのですが、後半の演奏や演出は、オペラのハイライトとしてはどうだったのかしらん。楽しいことは楽しかったけれど、テレビの生放送の時間内にぴたりと納め、それなりのエンターテイメントにするために、あちこちで無理をしていたような気も……
 
 ほかには、箱根駅伝を見て(どういうワケか一度見始めると、最後まで見てしまう。特に今年は感動的でした)、買ったまま見られずにいたオペラや音楽会のDVDを何本か見て、このお正月は終わり。
 さ〜てと。年越しをしてしまった仕事を片付けなくっちゃ!
 

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