アマデウスのしゃれこうべ

2006年01月12日

 今年はモーツァルト生誕250年。
 モーツァルトがらみの話題が、音楽ファンのみならず、一般メディアにも載る機会が多そう。
 と思っていたら、さっそく出ましたモーツァルトのガイコツ話。
 モーツァルトの頭骸骨と言われていた代物を鑑定したが、明らかにならないばかりか、謎は膨らむばかり……ということらしい。
  
 モーツァルトが亡くなったのは1791年12月5日未明。最低料金の葬儀が営まれた後、貧しい人々のためのウィーン郊外の聖マルクス墓地に埋められた。親族は誰も同行していなかったので、埋葬場所も明確でない。10年後、この墓地が掘り起こされため、遺骨は散逸した、と言われている。
 ところが、この時に墓堀りのヨーセフ・ロスマイヤーという人が、モーツァルトの頭蓋骨を回収し(ホンマカイナ?!)、それが回り回ってザルツブルグの国際モーツァルテウム財団が保管している、とのこと。その真贋を確かめるべく、インスブルックの法医学研究所と米軍遺伝子鑑識研究所のチームが鑑定を行った、というわけ。
 鑑定では、モーツァルト家から掘り出した2遺体の骨とDNAの比較がなされた。2遺体は、モーツァルトの母方の祖母とおばとみられているのだが、DNAを比較しても一致は見られず、この頭骸骨がモーツァルトのものと証明することはできないとされた。
 そればかりか、この祖母とおばとされる人物の遺骨も、血縁関係を示す遺伝子間の一致が見られなかった。つまり、果たしてこれが本当にモーツァルト家の墓なのかもあやしいということになってきて、何が何だか分からなくなっているらしい。
 
 この報道を読みながら、私はにんまりしていた。
 そうそう、これでよいのだ。いかにもモーツァルト的な展開ではないか。
 確かに書簡などは残っていて、アマデウス・モーツァルトという人が存在していた証拠はあるようだけれど、その肉体の痕跡が残っていないなんて、いかにも彼らしいではないか
 天から降ってきて、たくさんの美しい音楽だけを残し、また天へと戻って行った特別な存在、という感じがする。
 下顎部と前歯のない、むき出しのガイコツなんかを示されて、これがモーツァルトだといわれても、なんだか興ざめだ。
 科学の力でいろいろなことが分かると、それはそれで興味深いけれど、こと芸術の領域では、科学で分析できないままの部分があってもいい。
 むしろ、最先端の科学でかえって謎が深まっている今の事態を、モーツァルトはおもしろがって眺めているような気もする。
 あの世でこれをネタにオペラを作ったりして……題して「アマデウスのしゃれこうべ」
  
 昨年6月、ウィーンへ行った時に、音楽家の墓が集まっている区画にお参りをした。
 別の場所に埋葬されていた音楽家も、この一帯に遺体が移されたらしい。
 シューベルト、シュトラウス一家、ベートーヴェンなど、大物作曲家の墓の前に立つたびに、自然と頭を下がった。
 モーツァルトの”墓”もあった。でもここは、像はあるけれど、その下には一片の骨もない。なのに、なんだか不思議とモーツァルトを感じて、思わず手を合わせていた。
 たぶん、ここにいる、と思う所に、モーツァルトはいるのだ。
 私が思った所にも、あなたが思う場所にも。

Copyright 2006 © Shoko Egawa All Right Reserved.
CMパンチ:ホームページ制作会社:港区赤坂