ブーイングで始まりブラヴォーで終わった「トゥーランドット」

2006年04月04日

 いやはや、すごいブーイングの嵐でした。
 これまで音楽会やオペラで、こんな激しく長いブーイングは、聞いたことがありません。
 しかも、このブーイングがあったのは、公演が始まる前のこと。
 サントリーホールのホールオペラ「トゥーランドット」の初日、通路やロビーに眼光鋭く、耳にイヤホンをさした背広姿の男性が何人もうろうろしており、誰か要人が来る気配。聞いてみると、「首相が来られます」とのこと。
 で、開幕直線、2階席の最前列に小泉さんが現れたのですが、なんと荒川静香選手を伴っていました。
 その姿が見えた途端、すさまじいブーイングが起きたのでした。
 
 たぶん、荒川さん一人だったら、大拍手とブラヴォーで迎えられたでしょう。何しろ、あの金メダルの後、すごい勢いでチケット売れたそうですから、荒川さんの演技を見て、「元のオペラを聴いてみたい」と思ったお客さんが相当数いたはず。
 本当に、今日のブーイングは荒川さんにはお気の毒。
 小泉さんが一人で来られたとしても、こんなブーイングの嵐にはならなかったと思います。これまでも、首相がホールにやってくる場面に何度が遭遇しましたが、音楽ファンたちは、せっかく楽しみに来ている彼を煩わせるようなことはしていません。
 小泉首相の政策にはかなり批判的な私も、音楽を聞きに来られた時には、思い切り楽しんで欲しいと思うし、日頃の激務を思えば、一番いい席が与えられるのは当然、という気持ちでいます。
 でも、一番いい席で、そのうえ荒川さんとデートというのでは、小泉さんも役得が過ぎるような気が……。
 マスコミも注目しますし、当然、カメラも出て2ショットを撮影し、テレビや新聞などにも載りました。それを見越したような行動が、かなりの人たちの目に、あざとい、という風に映ったのでしょうね、きっと。
 
 で、それはともかく、演奏。
 ソリストでは、タイトル・ロールのアンドレア・グルーバーさんと、ティムールのジャコモ・プレスティアさんが素晴らしかったです。ほとんど、この二人のための一夜でした。
 1幕では、誰よりもバスのプレスティアさんの声が朗々とホール全体に響いてました。
 サントリーのホールオペラは、オーケストラがピットに入らず、舞台に上がっているので、ソリストにとっては通常のオペラより大変だと思うのですが、そういうことは、ものともせずって感じ。オケの濃密でエネルギッシュな音をも突破する力強さとスケールの大きさが、プレスティアさんの声にはあります。
 グルーバーさんは、圧倒的な存在感。心を病んでいる、まるで般若のようなすごみのあるトゥーランドットでした。終演後も、彼女が一番大きな拍手をブラヴォーを浴びていました。
 ただ、そのトゥーランドットが最後にカラフの愛によってどう変わるかという部分は、描かれなかったのは、ちょっと残念。
 プッチーニ自身が書いたのは、リューの死の場面まで。その後はプッチーニのスケッチなどをもとに弟子が書いているわけですが、その部分になると、トゥーランドットは衣装を脱ぎ、黒いドレス姿で、コンサート形式になりました。
 恐怖にとりつかれ、”狂乱の場”のようにも感じられる迫力たっぷりの演技を見せてくれたトゥーランドットが、どうなるのかっていうのは、見せてほしかったなあ……。それは見ている一人ひとりが考えてねっ、てことなのかもしれませんが、一応この演出家としての結末を出してもよかったような気がします。オペラを楽しみたくて行っている身としては、最後の部分が貧弱な感じになるのは、どうかなあ……。金メダル効果で、初めてこの作品を聞きに行った方にも、わかりにくかったかもしれません。
 ただ、こうやってプッチーニ自身が書いたものと、死後に補作された部分を視覚的にも違った形で上演されると、この補作はかなり厚みに欠ける、というのがよりはっきりします。つまり、それだけプッチーニのすばらしさを実感できるという仕掛け。おそらく主催者としては、あくまでプッチーニが主役の演奏会だったのでしょう。
 で、プッチーニといえば、指揮者はやっぱりニコラ・ルイゾッティ様。
 彼が振る時の東響は、すごくエネルギーに満ちあふれ、スケールが大きく、そのうえ彩りが多彩で、すごくイタリアンな演奏になるような気がします。何より、音楽の喜びとか力が伝わってくるのです。
 コンサートミストレスの大谷さんのソロもうっとするほど美しかったです。
 ルイゾッティ様は、この秋にも来日されて、サントリーホールのガラ・コンサートを指揮する予定。その後も、毎年来ていただいて、オペラを振って欲しい指揮者です。
 新国立劇場さ〜ん、よろしくね!

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