極上の演奏、アンビリーバボーな裏方

2006年04月09日

 好きな宗教音楽をあげろ、と言われたら?
 現在のベスト3を並べると、こうなります。
 第3位 ロッシーニのスタバート・マーテル
 第2位 バッハのマタイ受難曲
 そして第1は……なんといってもヴェルディのレクイエム
 この曲の演奏があると聞けば、何はともあれ万難を排して駆けつけたい、というくらいなのですが……
 しばらくは、それよりも今回の感動を大事に大事にとっておきたい気持ちです。
 それほどの感動を与えてくれた演奏というのが――
 
 指揮:リッカルド・ムーティ
 合唱指揮:ロベルト・ガッピアーニ
 ソプラノ:バルバラ・フリットリ
 メゾ・ソプラノ:エカテリーナ・グバノワ
 テノール:ジュゼッペ・サッバティーニ
 バス・バリトン:イルデブランド・ダルカンジェロ
 演奏:東京オペラの森管弦楽団(コンサートマスター:矢部達哉
 合唱:東京オペラの森合唱団
 
 この指揮者!
 このソリスト陣!!
 それに応えるオーケストラの演奏の素晴らしいこと!!!
 大地からじわぁっと浸みだしてくるチェロ。それを受けたヴァイオリンの音で、目に見えない霊が形を伴って立ち上ってきます。時に宇宙に響くオルガンのようにも聞こえる管楽器群、そしてティンパニと大太鼓による天の怒りが人間界を揺るがし……
 繊細なピアニシモから怒濤のフォルテシモまで、隅々に神経が行き渡って、まるで壮大なドラマのような演奏でした。
 そして、合唱!!!!
 霧の向こうから姿を現すピアニシモ、世界中の民衆の叫びにも似たフォルテシモ、それが絶妙に調和しながら大気の中に広がり、霧散していく時の残響のなんと美しいこと。
 こんな素晴らしい合唱が聴けるなんて、本当に夢みたいです。
 プログラムに掲載された合唱団の名前を見てびっくり!
 オペラやコンサートでソリスト(それも大きい役で)として活躍されているような歌い手さんの名前が、あっちにもこっちにも……
 ムーティさんの指揮を経験できるというので、勉強熱心な若くて優秀な方たちが集まったのですね。そういう方々が、ミラノ・スカラ座で合唱を指揮していらしたガッビアーニさんの指導を受けて、だからこその、厚みと深さと広がりと細やかさを持った、すごい合唱団になりました。
 なんと言っても、圧巻はソリストたち。
 フリットリさんの渾身のリベラ・メは、聞く者の魂をすべて浄化するような、神聖な力が宿っていました。
 サバ様の全身の細胞に染みいるようなお声に心を奪われ、ダルカンジェロさんのはらわたに響く低音にしびれ、グバノワさんの堅実で豊かな声にも魅了されました。
 まさに極上のレクイエムでした。
 これほどのソリストが集まり、ここまで感動的な演奏会になったのは、やっぱりなんといってもムーティさんのお力ゆえでしょう。
(そのムーティさんは終演後、満足そうな笑顔で、コンマスの矢部さんを「君はすばらしいリーダーだった」とねぎらっていらっしゃるのが聞こえました)
 終演後、聴衆は総立ちで拍手の嵐。
 ムーティさんが、忙しいスケジュールをやりくりして出演してくださったのは、小澤さんのお陰ですから、小澤さんにも感謝感謝です(早く体調が回復されますように!)
 
 実に、実に素晴らしい演奏会で、大満足……だったのですが……
 終演後の状況は、本当に信じられないものでした。
 ソリストの方々は楽屋で、たくさんのお客様の対応をされていました。主催者側がそうしたお客様をさばくことはなく、中には一人で10枚くらい写真を並べてサインを求めたり、サインが終わってもなかなか楽屋から出ようとしない長っ尻の方もいらっしゃいました。2日目のトリフォニーホールでは、フリットリさんは、そういうお客様対応の後に、取材も受けていました。前日に予定されながら事務方の不手際で実現しなかったため、フリットリさんの配慮で終演後に応じられたものです。
 小一時間したところで、ソリストの皆さんは「さあ、これからご飯だ!」と、楽屋を出ていかれました。
 ところが! 楽屋口の内側にファンが長蛇の列を作り、机も用意されていて、サイン会が始まったのです。しかも、この時も主催者はほとんど仕切りをしないので、一人ひとりの対応に結構時間がかかっていました。渾身の演奏をした後なのに、食事も取れず、飲み物も出されないまま。みんな、お腹がぺこぺこなのに……
 フリットリさんのご主人で、今回一緒に来日されていたナターレ・デ・カロリスさんが見かねて、差し入れのお寿司を、上手に箸を使って、ソリストたちの口に入れて回っていました。デ・カロリスさんも、ヨーロッパではムーティさんら著名な指揮者と共演をされ、日本でも新国立のドン・ジョバンニに主演されるなど、一流の歌い手です。そういう方に、そんなことまでさせて、それでも気づかない主催者。
 その間も、デ・カロリスさんは、にこやかな表情を保ち、ご自身もサインや写真撮影を求められて快く応じていらっしゃいました。サバ様も、デ・カロリスさんにお寿司を要求したり、半ばやけになったのか、大声でカンツォーネなど歌い出されたりしていましたが、その姿や声にファンは大喜び。どんな状況でも、あくまでもファン・サービスに努めるサバ様でした。フリットリさんも、すごくお疲れだったのに、一人ひとり笑顔で対応されていて、この方々のファンを大事にするプロ根性には、演奏とはまったく別の感動を覚えました。
 そして、そういう善意に甘えっぱなしの主催者に、憤りを感じたのでした。
 サイン会が終わった時、4人とも机に突っ伏して、「つかれた〜」。
 やっと外に出ると、そこにまだファンが待ちかまえていました。この時も、主催者が誘導もしないので、特に一番人気のフリットリさんなど、多くの人に囲まれて、デ・カロリスさんがぴったり寄り添って守っている以外、ほとんど”なされるがまま状態”でした。それでも笑みを絶やさないフリットリさん……。
 ようやく食事の会場に向かう車が発進したのは、夜の11時。演奏会が終わって2時間も経っていました。
 明日は皆さん、朝早くにホテルを出発だというのに……
 これだけ待ったんだし、前の方に並んだ人もやってもらっているんだから、サインももらいたいし、一緒に写真も撮りたいし、お話もしたいし、少しでも長くご一緒したいって思うのは当然のファン心理。でも、大事なアーチストがぼろぼろに疲れてもかまわない、と思っているファンはいないに違いありません。
 そもそも、こんな本格的なサイン会をやるなら、机を用意する前に、まずはご本人たちに事前にお願いして了解を取り、そのうえで楽屋でのお客様には短い挨拶で終わりにしていただくような仕切りをすべきでしょう。サイン会もさくさくと進むように、サインをしてもらうページを開いて並んでもらうとか、一人で何枚もサインを要求するなど、配慮を欠いたふるまいで時間がかかり過ぎている人には注意を促すとかの誘導をするのが、裏方を担っている主催者の役割じゃないのかしら。そうすれば、外にいたファンは1時間も(長く待った人は2時間近く)待たされず、ソリストたちの負担も少なかったはず(初日の東京文化会館の時も、同じような状況でした。もう一公演、本番が控えている、という時なのに!)。ファンがストレスを貯めず、アーチストの負担も軽くなるようにする工夫や配慮は、いくらでもできるのに……
 何もやらない主催者に向かって、大きな声で「喝!」「ブー!」を叫びたい気持ちです。

 フリットリさん、サバ様、ダルカンジェロさん、グバノワさん、そしてデ・カロリスさん!
 これに懲りずに、また日本に来てくださいね〜っ!!
 それからもちろん、ムーティ様!
 次の来日を、心からお待ち申し上げておりま〜す
♥♥♥♥

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