史上最高の《フィガロ》

2008年03月13日

 この躍動感!
 そして、アンサンブルの美しさといったら!!
 そのうえ、ソリストたちの表現力も抜群!!!
 というわけで、私のオペラ鑑賞史上(なあんて大げさですけど)、こんなにも楽しい《フィガロの結婚》は初めて♪
 サントリーホール・ホールオペラの最終日、すっかり夢中になって興奮したためか、帰る頃には体が汗ばんでいるほどでした。
 
 今回のMVPは、なんといっても、指揮をしながらピアノ・フォルテの演奏もしたニコラ・ルイゾッティ様(略してルイ様)!
 ルイ様の血肉に、モーツァルトが溶け込んでいるからでしょう、生き生きとした音楽を紡ぎ出すのみならず、いかようにも遊べるという感じの演奏でした。会話部分につけるピアノ・フォルテは、モーツァルトの他のオペラやピアノ曲のメロディを織り込みながらの即興風。これが、登場人物の雰囲気や気持ちにぴったり合って、絶妙でした。
 東京フィルハーモニー交響楽団のメンバーが、本当に楽しそうに演奏している姿も印象的。以前、東京交響楽団がルイ様と共演した時も、団員たちが乗りに乗って演奏していました。ルイ様は、まずオーケストラに音楽の魔法をかけてしまうのでしょう。
 普通の演奏会とは逆に、オーケストラはステージの奥に、メインの客席に背を向ける形で座りました。ルイ様は客席方向を向いて指揮&演奏。私は2階左サイドの最前列だったので、舞台にも近くて指揮の様子もよく見えたのですが、手の動きだけでなく、目や顔の表情も含めて全身で演奏者の心にモーツァルトのオーラを送り込んでいるみたいでした。
 ステージの前半分が、オペラの舞台。全体に大きな貴族の肖像画が散乱していますが、これは古い支配層が没落し、市民層が社会の主役となる時代の転換期を現しているそうです。なるほどこのオペラは、貴族であるアルマヴィーヴァ伯爵に対する、フィガロやスザンナら平民の抵抗をユーモラスに描いたドラマでもあります。上手に高低差をつけたセットで、舞台が広く、立体的に感じられました。本来はオペラ仕様のホールではなく、客席は舞台を取り囲むような形になっていますが、それを逆手にとって、まるで小劇場でお芝居を観ているような気分になれる仕掛けです。
 
 ソリストは、まさに適材適所。しかも、みなさん絶好調のようで、アドリブ的な動きを交えたベスト・パフォーマンスを披露してくれました。通常のオペラとは違って、指揮者はソリストの後ろ側に位置していることになります。何カ所にも設置されたモニターの画面で指揮は確認できるとはいえ、、これだけ呼吸のあった演奏になるには、相当の練習をしたのではないかしらん。
 ダニエレ・デ・ニースの明るくはつらつしたスザンナと、しっとりと気品のある大人を歌い上げたセレーナ・ファルノッキアの伯爵夫人。牧野真由美のマルチェリーナは、なんともコミカルで存在感があり、押しが強いくせに、どこか可愛いのです。
 スザンナには、はじける若さと未来への希望があります。伯爵夫人は、それをまぶしく感じながら、未だ未練を残しています。そして、マルチェリーナはもはや達観していて、自分の思いに素直に、今を生きています。年代の異なる3人の女性を、三者三様に魅力的に描いているのが、やっぱりモーツァルト。時の移ろいと共に失うものはあるけれど、そしてそれは寂しいことではあるけれど、人生の楽しみという点では、むしろ後半生にたっぷり用意されているのかもしれないよと、言ってくれているような気がします。
 それから、ダニエラ・ピーニのケルビーノは、歌と演技だけではなくスタイルも抜群で、ぴったりした軍服姿が魅力的。バジリオとクルチオ二役の、ジャンルーカ・フローリスのいかにもイタリアンなテノールも堪能しました。
 そしてそして、伯爵役のマルクス・ヴェルバが、とってもス・テ・キ 
 《セビリアの理髪師》時代から年は流れたとはいっても、この伯爵はまだまだ若くてモテモテなのでしょう。少なくとも本人はそのつもりらしく、女性に対しては自信たっぷり。妻とは違って、まだまだ大人になりきれていない感じです。フィガロ役のガブリエーレ・ヴィヴィアーニが、どっしりと豊かな男っぽいバリトンなら、ヴェルバはもう少し軽やか。そのうえ品があって、清潔な色気というか、さわやかな艶っぽさも漂う声です。一杯食わされた後に歯がみして悔しがるところなど、演技力もピカイチ。しかも、ルックスもいいのです。プログラムに掲載されたプロフィールを見ると、《魔笛》のパパゲーノが当たり役ということですが、私としては、ぜひこの方のドン・ジョバンニを見てみたい!と思いました。
 
 一つだけ残念だったのは、平日だからということもあるのでしょうけれど、2階の上に空席が目立ったこと。
 もったいないな〜
 サントリーホールだし、お値段がリーズナブルということで、コンサート形式でやる演奏会と思って、パスした人がいたのかもしれません。でも、どんな劇場でやるオペラより、オペラ的なオペラだったのに…。見てよし、聞いてよし。少し気が早いけれど、年末に一年を振り返った時に、今年のオペラベスト3にきっと入れたくなる、と思うできばえでした。
 そんな公演を見逃された方々のためにも、そして、もう一度あの楽しさを反芻したい私のためにも、収録していたNHKは、ぜひ、ノーカット版で放送してくださるように!!
(放送日はまだ決まってないそうです)
 
 今年は、モーツァルト&ダ・ポンテ三部作の1年目で、来年は《ドン・ジョバンニ》。
 ルイ様には絶対来年も来てもらいたいな〜、ヴェルバのドン・ジョバンニが見たいな〜
 そう思っていたら……
 
 なんと!
 来年も指揮はルイ様。しかもヴェルバがドン・ジョバンニ役ですって!!
 今からしっかり日程を手帳に書き込んでおかなくては!!!
(公演日は2009年4月5、8,11日です)
 

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