竹島問題に思う

2006年04月25日

 まず、私の基本的な立場を明確にしておく。
 今の日本政府の対米偏重外交は問題だと思う。ネット上でしばしば目にする、狭量でナショナリスティックな物言いが増えていることにも、不安を感じている。
 A級戦犯を祀る靖国神社に首相が参拝することには、反対だ。彼らは、無謀な戦いに国民を追いやり、戦陣訓を発布して、生きて捕虜になるより死ねと教え、たくさんの日本人の命を失わせた責任者でもある。戦場で亡くなった方々も、国のために死ぬより、生きて国や郷土の役に立ちたかったに違いない。その無念さを思えば、多くの人たちを死においやった者たちを祀ること自体、神社の大きな過ちだと思うし、そういう所に、日本国民を代表する立場の者が参拝すべきではない、と考えている。
 そして学校教育では、日本の歴史や文化のプラスの面ばかりでなく、負の歴史もしっかり教えてもらいたい。次の世代が過ちを繰り返さないためにも、過去の過ちを知っておくことは必要だと思うからだ。
 
 そのように考えるからこそ、靖国神社に対する中国や韓国の批判にも、一定の共感は示してきた。だが、その私でも、というより、そういう立場だからこそ、今回の竹島問題での韓国側の対応や盧武鉉大統領の発言には、強い違和感を感じている。
 報道によれば、同大統領は日本の海上保安庁による調査を、こう評したそうだ。
「(調査は)国粋主義性向を持つ日本の政権が過去の侵略の歴史を正当化し、未来の北東アジア秩序に挑戦しようとする行為であり、歴史の問題、安全保障の問題だ」
 韓国当局の、日本の現政権に対する不信感は、理解する。
 しかし、これは現在の日韓の国境に関わる問題であって、「過去の侵略の歴史」の評価とは次元が違う。靖国参拝や教科書問題は、「過去の侵略の歴史を正当化する」とする韓国側に見られても仕方がないように思えるが、竹島問題に関しては、日本の対応はまったく逆のベクトルを向いている。
 日韓のどちらの領土かについては意見が対立したまま、両国は漁業交渉の中で、お互いが相手の排他的経済水域内での漁を認めた。にもかかわらず、韓国軍が監視を続けているために、日本側の漁船は近づけない状態が続いている、という。守備隊を常駐させて、竹島の武装化を進め、日本の巡視船に発砲したこともあった。
 学校教育でも、この島が韓国の領土であるという、韓国側の一方的な主張だけを教えてきた。テレビのインタビューなどを聞いていると、韓国には、日本が以前から領有権を主張し、国際司法裁判所の付託することを提案したことも知らない人が多いようだ。
 武力をもって占拠を行い、領土の確保を図る。教育やメディアを通じて、自国の主張だけを国民に教え込む――こちらの方が、どちらかというと「侵略」的な手法と言えるのではないか。日本に対して、「やるな」と言っていることを、韓国はこの問題では、自分たちがやっているような気がする。
 一方の日本は、円満な解決を望んできた。少なくとも、「過去の侵略の歴史を正当化」するような手段は、竹島問題に関しては、一度もとってきていないはずだ。
 この態度を、「主張すべきことを断固として主張しないから、今のような事態になるのだ」と批判する人も少なくない。「弱腰」という声も聞こえてくる。
 だが、領土問題を白黒はっきりつけようとすれば、当事国で話がまとめるのは難しい。関係は悪化し、戦争にさえ発展しかねない。こと、この問題に限っては、境界線を曖昧にし、”なあなあ”の態度を続け、その地域の恵み(竹島に関しては海の幸)を双方が享受する、というのは悪くない。むしろ、一番平和的で、共存共栄的なやり方だと思う。
 ただ、このやり方が通じるのは、当事国双方が、平和的なやり方で共存共栄をしようと考えていることが前提だ。どちらか一方が、「武力を使って、自分だけのものにしよう」と考えたり、それを実行してしまうと、他方も「そうはさせじ」となって、結局真正面から角を突き合わせることになってしまう。不幸なことに、そういう状態に陥ってしまったのが、今回の事態、と言えるだろう。
 韓国が、なかなか振り上げた拳を降ろそうとせず、交渉は難航したらしい。面子にこだわるお国柄もあろうし、支持率が低下している盧武鉉政権としては、ここで一発「強さ」を見せておきたい、という国民向けのパフォーマンスもあるだろう。だが、もし韓国側が丸腰の日本の調査船に何らかの有形力の行使をすれば、韓国側も大きなダメージを受ける。なんとか妥協に至ったのは、最後には理性的な計算が働いたのだろう。
 ……と思ったが、そうでもなさそうだ。
 盧武鉉大統領は、対日政策に関する特別談話を発表し、日本に対してさらに強い態度で臨む姿勢を明らかにした。せっかく双方のナショナリスティックな感情も少し収まりかけたというのに、これでは火に油を注いだうえに、団扇と扇子でバタバタと煽いでいるに等しい。
 この特別談話の中で、彼はこう言っている。
「世界の世論と日本の国民に、日本政府の不当な仕打ちを絶え間なく告発していく」
 果たして、一連の韓国側の態度、とりわけ同大統領の対応を見てきた「日本の国民」は、彼の言うことに耳を傾けたい、と思うだろうか。

 私自身の気持ち言えば、今回、測量船の報道を見ているうちに、だんだん海上保安庁の測量船にエールを送りたい気持ちになってきた。選挙を控えているのに支持率が低迷している事情があるとはいえ、感情的に国民を煽りたてる同大統領を、非常に腹立たしく感じた。
 今のところ、私の憤りは大統領とその周辺に対するものであって、韓国国民に向けられているわけではない。ただ、こんなことが続けば、どうなるだろうか……と、自分の感情の帰趨に自信が持てなくなってくる。
 結局のところ、盧武鉉政権がやっていることは、日本の国民を韓国離れさせるだけではないか。そして、靖国神社がA級戦犯を祀っていること、そしてそこに首相が参拝することを是とする人々を、勢いづかせるだけではないのか。盧武鉉大統領に問いたい。
 そんな事態を、韓国の国民は望んでいるのですかと。
 
 私たちが熱くなり過ぎれば、日韓関係はますます悪化する。この対立は北朝鮮に利用されるだろうから、対応は非常に難しい。けれども、今の韓国政府が対立的な関係を望むのであれば、日本としても、何らかの対応が必要になってくる。こういう領土のことで、自分の国が口を極めて非難されるのを、繰り返し聞かされて愉快に思う国民はいないだろう。「興奮しない方がいい」と自制を求めるのであれば、政府として、何らかの責任ある対応をし、それをきちんと国民に説明しなければならない。
 対応の選択肢はあまり多くない。
 この問題に白黒ハッキリつけようとするのならば、国際司法裁判所など、第3者機関に歴史資料を精査してもらい、法的な判断を仰ぐのが一番平和的な方法だろう。もっともその前提には、いかなる結論が出ても、裁定には従うことを双方が約束し合う必要がある。日本政府は、この方向で韓国に働きかけを行い、国際世論にも日本の主張や立場に理解を求める努力を始めたらどうか。
 ただ、一つ心配なことがある。
 今回の事態を巡っては、韓国が調査船の拿捕も辞さない強い態度で反発してくるとは、日本側は想定していなかった、という報道がある。それが事実なら、日本政府の読みの甘さが大いに不安だ。情報を収集し、相手の考え方を知り、あらゆる状況をシュミレーションして、行動を起こすのではなく、もしかして日本の希望的観測で物事を進めていっているのではないか。もしそうであれば、竹島問題に限らず、日本は外交で成果が得られないどころか、将来にわたって国民に大きな損失がもたらされかねない。
 日本政府の外交担当者は、そこを深く深く自覚して、冷静かつ先を見据えた対応をしていただきたい。

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