薬害が広がったもう一つの理由
2006年07月03日
<これは薬害エイズとまったく同じ問題です。矯正、すなわち刑務所の医療では薬害エイズもC型肝炎も1人も発生しておりません。
どうしてだと思いますか?>
先日、刑務所医療に携わっているA医師からこんなメールが届いた。
その日は木曜日で、私は朝の番組「やじうまプラス」に出演。その日の新聞で大きく取り上げられていた薬害C型肝炎訴訟についてコメントした。
私の発言趣旨は次のようなものだった。
国民の命や健康を守ることは、国のもっとも大事な役割の一つであるはずなのに、集団予防接種での注射器の使い回しによるB型肝炎感染や薬害エイズでもそうであったし、アスベストの問題にも見られるように、日本の歴代の政府はその自覚が足りないのではないだろうか。危険性を指摘する情報はあったのに、それを無視して効率や経済性(特に企業の)にとらわれて、国民の命や健康を危険にさらした。そうした通底する問題点を改めない限り、安心できない。
Aさんは、このコメントを聞いて、別の観点から指摘をくださったのだった。
メールは、こう続いていた。
<私自身、数十年の臨床体験の中で、矯正で血液製剤を使用したのはたったの一人だけです。それは血友病の患者さんで、他に替わる手段がないからでした。
それが、一般社会の病院にいたころは、毎日のように関係のない人に使用していました。他の医師たちも何処の病院でも、それが当たり前のことだったのです。
血液製剤は高価なんです。儲かるのです。わずかな血液疾患の患者さんだけに使ってたんでは製薬会社も病院も儲かりません。
それが、医療適応 = Medical indication を無視して血液疾患以外にも闇雲に使用した理由です。患者さんや家族から、高い薬を使ってくれと要請されたこともあります。
(中略)
病気を治すか否かではなく、どれだけ医療費を費やしたかによって報酬が決定されるんでは、まともな医師は滅んでいくだけです。闇雲にやった方が儲かるという我が国特有の出来高払い制度の構造が変わらない限り、この現象は今後も続くでしょう。>
今回、大阪地裁で判決が出たC型肝炎訴訟の原告には、出産時の大量出血の止血剤として血液製剤ファブリノゲンを投与された女性が多く、刑務所では、そもそもこのような薬を使う状況が少ないとはいえるだろうが、様々な病気を持った受刑者は多いし、医療刑務所では各種手術が行われている。受刑者の医療は、国が責任を持つという制度なので、健康保険ではなく、税金が使われている。高い薬を使ったからといって、医師や刑務所が儲かるわけではない。
というわけで刑務所では、とりわけ高価な薬については、どうしても必要な患者に限って投与される。それが結果として、薬害から患者を守ることになった。
高価な薬をじゃぶじゃぶ使えば儲かる日本の医療体制が、財政を圧迫するだけでなく、薬害を広げることになったのであれば、このシステムはやはり何とかしなければならない(日本の医療で使われる薬は、国が承認しているわけで、たとえ少数の患者に限って投与されるものであっても、安全性の確認は十分になされなければならないことは言うまでもないが)。
同時に、 高い薬=効果がありそう、注射をしてもらえればなんとなく安心、という国民の意識にも問題がありそうだ。
そういえば、つい先日、幼い子どもを持つ近所の若いお母さんからこんな話を聞いた。
幼稚園で手足口病が流行していて、その家の子どももかかってしまった。口内炎がひどく、食事が食べられないので、病院に連れていったが、医師からは「夏風邪のようなものだから、特に薬は出しません」と言われたとのこと。
それでも、痛みで泣いている我が子が心配で、お母さんは翌日も病院に連れて行った。けれど医師からは同じことを言われて、注射も薬も出なかった。
おそらくその子が衰弱していれば、それなりの処置がなされたのだろうが、子ども自身の治癒力に任せる方がよい、という判断なのだろう。
お母さんの話を聞いている時は、なんとなく頼りなく、ありがたみもなく、不親切に思えてしまったりもしたが、よく考えれば、病院の利益より子どもの健康を考える、いいお医者さんに違いない。
病気を治してくれる医者より、高い薬をたくさん使う医者が評価されるなんて、やっぱりおかしい。











