ロサンゼルスに行ってきました
2006年10月09日
2001年から行っていたアメリカに対する「私的経済制裁」をカリフォルニア州に関しては、仮解除することにしました。
ジョージ・W・ブッシュ氏がアメリカの大統領の地位に就いて、最初にした”仕事”の一つが、地球温暖化防止京都議定書からの離脱でした。それに抗議する意味で、私は「私的経済制裁」を始めました。
「私的経済制裁」というのは、代替品がない場合を除いては、なるべくそこの製品を買わない、というもの。ですから、米国産の野菜は買わず、値段が高くても国産にします。大好きだったカリフォルニア・ワインも、ほとんど飲んでいません。「なるべく」というところがミソで、仕事に使うコンピューターなどや料理に使うレモン、たまたまレストランにカリフォルニア・ワインしかない場合などは例外。よく言えば「柔軟」、悪く言えば「軟弱」「いい加減」ですが、無理をすれば、私の方が困ったりつらいだけで、誰に対する「制裁」か分からなくなってしまうので。
アメリカは、温室効果ガスである二酸化炭素の最大の排出国。地球全体の4分の1の量を発生させています。そのアメリカが、地球環境よりも自国の企業の利益を求めている間に、地球は温暖化の一途をたどっているのです。
しかし、巨大ハリケーンや猛暑などの被害を通して、アメリカ国民にも、こうしたブッシュ政権のやり方に疑問を持つ人たちが増えてきたようです。いくつかの州で、二酸化炭素の排出規制の動きが出ています。
そして先月末、シュワルツェネッガー・カリフォルニア知事が2020年までに二酸化炭素など温室効果ガスを25%削減する法案に署名し発効させました。
その署名セレモニーでは、衛星中継でトニー・ブレア英首相が「世界中の人たちを感激させる素晴らしいリーダーシップを発揮した」とシュワ知事を持ち上げ、小泉純一郎前首相の次のようなメッセージも読み上げられた、とのこと。
「二大経済大国として、日本と米国は地球温暖化との戦いの先陣に立つ責任を共有する」
どうして、首相時代にこのことをブッシュ大統領に言えなかったのかしらん。シュワ氏は、カリフォルニア州の知事であって、アメリカ合衆国の代表者ではないのだけれど……
それはさておき、この署名に先立って、シュワ知事はブルームバーグ・ニューヨーク市長と地球温暖化問題で話し合い、お互いに協力していくことにした、という報道もありました。その中で、シュワ知事のこんな言葉が紹介されています。
「我々は連邦政府が地球温暖化防止の先頭に立つようになるのを待っていられない。ならば、我々が先頭に立つ」
パフォーマンスが過ぎるという批判もあるでしょうが、国際的にも耳目を集めやすい彼のような人が、こうした決断に踏み切ったことは、その影響力も含めて、率直に評価したいと思います。
ただ、「仮」解除としたのは、シュワ知事は今、再選を目指す選挙のまっただ中だから。何しろ、彼はブッシュ大統領と同じ共和党。2004年の共和党大会では、シュワ氏はブッシュ支持の応援演説をして再選を盛り上げた”前科”もあります。世論調査によれば、対立候補をかなり引き離しているので、よほどのミスを犯さない限り、11月の選挙には当選するはず。「本」解除の前に、再選後の彼の姿勢を見て、環境問題への取り組みが選挙用のパフォーマンスではなかったことを確認したいと思います。
シュワルツェネッガー氏が知事となったのは、3年前。民主党のデイヴィス知事がリコールされ、同時に行われた占拠で初当選しました。しかし、民主党が多数派を占める議会と対立。昨年11月には、自身への信任投票という意味合いも込めて、財政再建のための行革法案を住民投票にかけました。しかし、起死回生のこの策も裏目に出て、賛成61%、反対39%で大敗。支持率は低迷します。
再選のための選挙運動中に対立候補と行った討論で、公職に就いてから一番後悔していることを聞かれて、シュワ氏はこの住民投票を挙げています。「急いでことを進めすぎた。すべての議員との協力関係を作らず、皆さんと一緒にやっていく姿勢に欠けた」と反省の弁を述べていました。
以来、州議会との関係改善に努めてきたようで、最近のシュワ知事は、議会が進めてきた温暖化防止対策の法案にも拒否権を行使したりせず、署名することになったのでした。環境問題以外にも、最低賃金をアップする法案に署名するなど、民主党の政策もむしろ積極的に取り入れているようです。そうなって、支持率もアップ。選挙では、労働組合の支持も取り付けています。
カリフォルニア州も温暖化の影響を受けていて、今年7月には、激しい熱波に襲われました。8月9日のロサンゼルス・タイムズ(電子版)によれば、7月中に熱波が原因と見られる死者は141人に上ります。山火事も頻繁に起きています。人々が地球温暖化に関する危機感を肌で感じるようになってきたようです。
知事の職を失いたくないために、突然政策を変えたという批判もありますが、地方自治の最大の役割は、民衆の求めることを行うことだと考えることもできます。人々が求めているものを肌で感じての政策変更なら、そしてそれが地球の未来にとってよい決断であるなら、大いに結構と言えるのではないでしょうか。
私はむしろ、共和党の知事をして、このような政策変更をさせた、カリフォルニア州の人々のパワーに敬意を表したい気持ちです。
実は私は、このカリフォルニア州のロサンゼルスに9月の末から10月の初めにかけて、1週間ほど行ってきました。
今回のテーマは、環境ではなく、格差の問題です。市場原理主義とも言える考え方に基づいた改革を行ってきた小泉時代に、日本では格差の拡大、固定化が進んできました。こうした「改革」はアメリカをお手本に、あるいはアメリカの要求に基づいて行われてきたわけですが、格差の問題も、やはり本家アメリカでは、日本より一歩進んだ形で起きています。
その現状、人々の意識や行動を見てこようというわけで、NHKのクルーと共に取材をしてきました。
私が想像していた以上に問題は深刻でした。戦争による出費の増大が福祉を後退させ、貧困層を増大させています。そうした戦争志向の政権はアメリカ国民自身が作ったわけではありますが、その一方で、シュワ知事にも政策変更を迫るような、健全でたくましい草の根民主主義も目の当たりにしました。日本で報じられていない、新たな潮流に触れるなど、とても有意義な取材になりました(ごく短時間でしたが、シュワ知事にも直接話を聞けました)。
詳しい内容は、来月の番組でたっぷりお伝えできるはず。放送の予定が決まりましたら、お知らせします。
解禁としたカリフォルニア・ワインも飲んで来ましたが、「テロ対策」ということで、飛行機に液体を持ち込めなくなってしまったので、おみやげに持って帰れなかったのが残念でした。
(写真は、環境に関する研究機関設立のセレモニーでのシュワ知事。左隣が、デイヴィス前知事)