大阪地検の失態から見えてくる機能不全

2007年02月17日

 六法といえば、法律の基本中の基本。憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法の六つを指し、分厚い法令集を「六法全書」と呼ぶなど、法律の代名詞にもなっている。
 難しい司法試験にパスし、司法修習を経て実務についた法律家の方々は、当然、六法には精通している……と思いきや、大阪地検が大ポカをやらかした。
 
<大阪地検が、「女性が離婚後300日以内に出産した場合、子供は戸籍上、離婚前の夫の子供になる」と定めた民法772条の規定を見落とし、本来、罪に問えない中国人女性(28〜を公正証書原本不実記載・同行使罪で起訴していたことがわかった。女性は、前夫との離婚の日から140日目に新たな交際相手との間に生まれた男児を前夫の子供として出生届を出していた。同地検は「民法の規定の理解が不十分だった」とし、16日、公訴取り消しを申し立て、女性に謝罪、大阪地裁は公訴棄却を決定した>(2月17日付読売新聞)

 新聞記事によると、この女性が男児を出産したのは2001年10月。前夫に「(戸籍上の)父親になって欲しい」と頼んだが断られたために、無断で大阪市内の市役所に出生届を出した。これを知って怒った前夫が警察に告発。大阪府警は女性を書類送検し、大阪地検が昨年10月に在宅起訴した。ところが、12月の初公判で弁護人がミスを指摘。
<予期せぬ弁護人の指摘に、立ち会いの検察官は動揺を隠せなかったという>とのこと。
 何ともみっともない話だが、この一件は単に検察官の民法オンチをばれただけでなく、今の検察が抱えている重大な問題点を何よりわかりやすく示している、ともいえる。
 通常、書類を受け取ってから、裁判が開かれるまでには、何人もの検事が関わる。この件でも、担当の検事が女性本人の取り調べ、起訴状を作成し、それを刑事部長や次席検事など複数の上司が確認し、了解する旨の判を押しているはずだ。そして裁判に検察官として立ち会う公判部の検事が、一件記録を元に、立証計画を立てているる。つまり、たまたま「民法の規定の理解が不十分」な検事一人がいたためのミスではなく、大阪地検ぐるみの失態と言える。
 まさに、論語読みの論語知らず。検察は刑事事件を専門に扱っているから…などといういいわけは通じたない。民法は、司法試験でも必須科目だったはずだ。しかも民法772条は、DNA鑑定で血縁関係を判断できる今となっては時代錯誤の法律だとして、改正を求める声が高まっている。毎日新聞のように法改正のキャンペーンを張るメディアもあるくらい、一般の人たちにもよく知られている規定なのだ。
 にもかかわらず、大阪地検の検事は上から下まで、揃いもそろってミスを見逃した。
 警察では、おそらく民法をまともに勉強したことのある捜査員は稀だろうから、女性が嘘の届け出をしたと”自白”したことで犯罪と判断してしまったのだろう。これは、容認はできないが、まだ理解できなくもない。そういう警察のミスをチェックするのが検察の役割のはずだ。ところが、検察庁のチェック機能はひどくお粗末らしい。しばしば指摘される、この検察の機能不全が、今回の事件で露呈されてしまった、と言えるだろう
 最近明らかになった富山県警の誤認逮捕事件でも、警察が犯人だと決めつけた男性を、富山地検は物的証拠とは矛盾するにもかかわらず起訴してしまった。
 この二つの事件に共通しているのは、警察が犯人と認定し、”自白”があれば、検察は安心して、ろくなチェックもせずに、、ほぼ自動的に起訴してしまうという、ということだ。無実の人でも、殺人事件の”自白”をすることがある。ましてや、もっと軽い刑期の事件の場合、早く自由の身になりたいとか、あまりに攻められて根負けしたとかで、虚偽の自白をしたケースはたくさんある。にもかかわらず、”自白”がありさえすれば、弁護人が捜査段階から激しく争えばともかく、そうでもないケースは、検察は証拠を精査したり、捜査方法に問題がないかを確認したり、法律適用を再検討しないのが実態らしい。
 こうした検察の機能不全が、冤罪を生む一要因でもある。法務省と最高検は、今回の一件を、一人の検事、あるいは一地検の失態と見るのではなく、今の検察全体が抱えている問題として、重くとらえてもらいたい。

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