「まずは実情を知ってもらいたい」亡命チベット日本代表に聞く

2008年04月27日

 ゆうどきネットワークというNHKの番組で、チベット問題のレポートをした。
 とはいっても、何しろ時間が短いのと、この番組は初めてで慣れなかった私の不手際で、取材の大半が紹介できずじまい。
 本当に、短く、分かりやすく、というのは難しい。
 特に、ダライ・ラマ法王日本代表部のラクパ・ツォコ代表のインタビューが、ほんの一部しか紹介できなかったのは本当に残念。
 というわけで、私が行ったインタビューをここで詳しくご紹介したい。
 
 
――長野でオリンピックの聖火リレーがありますが、今、どんなお気持ちですか?
「チベットを支援する団体も行くそうですが、私は、そこで暴力をふるわないようにということをお願いしているんですね。様々の団体が行くようですから、そこで何が起こるかっていうことについては本当の所、心配です。ダライラマ法王がおっしゃったように平和的に進んで欲しいという願いが本当に成就するかと、心配なんですよ」

――何かおきると、法王の指示があったように言われかねない。
「それもあります。胡錦涛さんは演説の中で社会の調和を強調していたんですけれども、いろいろな出来事が起きる中で、チベット人達は平和的じゃないというイメージを一生懸命作っているんです。チベット人と中国人の民族同士の戦いという方向が作られています。そういう流れのなかに、私たちチベットの平和的な運動を巻き込んで欲しくないんですよね。正直の所、私たちはアンチ・チャイニーズでもないし、アンチ・オリンピックスでもない。法王様はあれだけ世界中に明確におっしゃっています

――今回の騒乱以降、日本人の反応は変わって来ましたか?
「随分変わってきました。チベットを中国が侵略して49年になりますが、日本では、チベットの本当の実情を知る機会というのはほとんど無かった。ずっと無視されてきたというのが現状なんですよ。ところが今回、この事件が起きてから、反応はものすごい強いですね『自分はチベットにいったことがある、インドにも行ったことがある、は何か出来ることがあれば、是非知らせて欲しい』とか、『チベットの旗を持って全国に宣伝に行きたい』とか、そういう方もいます。とにかく、昔に比較すると大変強い反応ですね」

――仏教界からも色んな反応があるようですね。
「先日、全日本仏教会の代表団がここに見えて、今回の事件に対して、大変自分たちは心配していると、チベット問題を対話で平和的に解決して欲しいという内容を書いて、中国政府の胡錦涛さん宛てに書いた手紙や福田総理大臣にも手紙を送ったとおっしゃっていました。それから、曹洞宗関係、あるいは善光寺ね。同じ仏教としてそういう反応を示したことは、大変ありがたいんですね。これは、世界が見ています。世界は日本を仏教の国として見ているから、そういう意味で非常にインパクトが強いんですね。
 この話をチベットの中に住んでいるチベット人たちが聞いたら、大変力になりますね。日本も同じ仏教国として、今回、私たちの十分力になってくださったということになりますね。そういう意味で、非常にありがたいんです」

――それまで日本政府はあまり強い意見を表明してきませんでしたが、いらだちはないですか?
「今回は日本の高村外務大臣や福田総理大臣は、チベット問題は国際問題ですっていう発言をなさっていますね。そういう発言は昔だったら考えられない事です。日本政府としては随分張り切って、総理もそういう発言なさったと思うので、大変ありがたいし、その発言に国際社会は、非常に反応を示していますね。今回は日本政府もこういう発言をしている、と。本当ですかと我々に聴く人も、結構います。そういう意味で、非常にありがたいんですね」

――他の国に比べると非常に控え目だなっていうのはありますけど
「他のG8国に比べると日本はまだまだ。なぜならば、他の欧米の国々、政府、チベットについて実情をよく知っていますね。よく知っているからこそ、反応ができるんですね。日本は今、聖火リレーが話題になったから騒いでいますけれども、この問題の根本はどこにあるかっていうことについてよく知っている人は、日本の政治家、あるいは政府関係者の中には少ないと思いますね。
 でも、今はチベットの問題は現実的に国際問題になっていて、日本政府もチベットの問題無視できない。
 メディアの方々もこの何週間は、ウチの事務所にたくさんいらっしゃったので、まず、チベットの現状、歴史上の背景とかを、1時間以上もかけて説明しました。我々スタッフ3人で対応しても、なかなか時間が足りない状況でした」

――日本の国民に対しては何を一番言いたいですか
まず何よりチベットの実情を知ってもらいたいんですね。
 これまでも、チベットの問題にかなり力を入れている組織や個人の方々もいらっしゃった。その方々は、以前から実情を知っています。でも、マスメディアを通じて全国にチベットの実情を訴えたのは、今回初めてです。
 これまではテレビの番組でも、チベットといえば、五体投地をやっているとか、鳥葬、山や川や高原の風景とかその程度。だから、今回の機会を通じて日本の方々にまず、チベットの実情を知ってもらいたい。実情を知れば知るほど、同情的な気持ちも出てくると思いますね。
 今、日本政府も非常に難しい状況で、中国とは歴史上の関係、いろいろな経済的な政治的な関係があります。こういう複雑な中で、チベットは比較的非常に小さい問題ですね。
 でも、チベットの人々は見た目は日本人そっくりで、歴史上では、いくつものつながりがある。ということで、チベットの現状に沿った何らかの人道的な援助なり、そういうようなことを訴えていけるんじゃないかということは思っています」

――チベットでは、子ども達に文化や言葉を十分伝えられないとも聞いています。
「そうです。ですから、ダライラマ法王は、いつもこうおっしゃる。
"Somekind of genocide  is taking place in the world  cultural genocide"
 その通りですよ。この49年間の中で、チベットの伝統的な文化、言葉の教育をチベット人の若い世代が受けるチャンスがなかったんですね。中国政府は代わりにドラックス、酒、北京からわざわざ運んできた売春婦。それとカラオケボックス、ディスコ、そういうものを若い世代がすぐ手にはいるような環境をつくっていきました。
 インドに育った世代は、世界のどこへ行っても困らないような、ちゃんとした教育を受けています。でも、チベットの中にいる方々は、個人のせいではなく、中国政府の政策のもとで、チベットの言葉を習うとか、お寺の中でお坊さん達から伝統的な勉強を受けるチャンスがないんですね。
 形はあります。お寺はあります。お坊さんも数はいます。でも、教える先生方は、どんどんどんどん刑務所の中で亡くなった。教える人間がいないんです」

――ラサに行った人から、ラサではチベット人と漢民族との格差がひどく、仕事がないチベット人のホームレスが出ている、と聞きました。
「聞いております。中国人とチベット人が同じ学校で勉強しても、そこでチベット人で優秀な生徒がいても、就職では中国人優先。チベット語は勉強しても生活できないんですよ。それで中国語を勉強しても、中国人と平等のところにはたどり着かないんですね。
 中国語でチベットの名前は西蔵(シザン)と言います。中国の西にある蔵です。で、何の蔵かというと。天然資源の蔵、水の蔵、森の蔵、山の蔵。その上、軍事的には非常にいい場所。そういった理由で中国にとって、大変な貴重な場所になっているんですね。だから、チベットは欲しい。でも、そこに住んでいる人間は邪魔者になのでしょう。
 中国政府がチベットを侵略した後でチベット人たちにもう少し優しくすれば、チベット人の人たちも人間ですから、こんな問題には、ならないと思います。でも、49年間もひどいことをずっとやってきた。チベット人たちは、火山と一緒ですよ。火山もいきなり噴火しないんですね。段々熱がたまって、それと同じように、チベット人たちも不満と怒りをずっと抑えてきて、今回3月10日に爆発したということは言えると思いますね

――チベット人は、今、どういう状況でしょうか。
「チベットの中に生まれた青年、インドに生まれた青年、それから欧米に住んでる青年たちもいて、それぞれ違う環境の中で育って、国籍も別々だけれど、自分の体の中にはチベット人の血が流れている意識は非常に高い。今、民族意識は非常に高まっているんですね。
 中国政府は、今回の事件に対して、全てダライラマ法王の指示のもとでやったが後悔している、間違っているという文章作って、お坊さん達にサインを迫って、でもお坊さんの中には、そういうことをやりたくないと言って、自殺図ったお坊さんもいます。それから、たくさんのお坊さんは山に逃げて、食べ物が無くて、飢えで死んだという情報もあります」
 
――ダライ・ラマ法王の影響力は依然として大きいわけですね。
「もちろん、そうです。ダライラマ法王は内外の状況、世界の状況を見た上で、中道の政策を提案したんですね。2000年以上の独立国家の歴史があった民族ですけれども、でも独立は要求しません。この政策の主なポイントには今、現在中国の憲法の範囲の中で私たちは仲良く暮らしましょうと。嫌いでも中国人とチベット人と過去の何千年の歴史の中で一緒によく住みました。これからも、嫌いでも仲良く住まなければならないので、ですから、現実的になって一緒に暮らしましょうと。中国政府の一番の心配は、チベットが中国から離れるんじゃないかと、それが一番彼ら恐れているんですね。じゃあ、その心配をなくすために、私たちは独立を要求しませんと。チベットは、外交と防衛は中国政府に任せるので、あとのことは、私たちチベット人に任してほしい、ということです。けれども、中国政府には、解決しようという政治的な意思が足りない」

――ダライラマ法王が、みんなに非暴力で中道の道を行こうじゃないかと呼びかければ、武装蜂起をしたいと考えると人も、それには従うわけですか
「ダライラマ法王は2002年から特使を6回にわたって中国政府に特使を送っているんですね。でも、何の成果も得られないんです。成果がないから、特に若い人の間に、フラストレーションはたまっています。
 でも、ダライラマ法王は、我々チベット人には大変な大きい存在です。誰にも比べられないような存在なんです。政策に対しては、個人個人の意見が法王の意見と必ず同じになるとは限らないんですね。でも法王には、非常に尊敬の気持ちがあり、たとえこの中道の政策が賛成できないという人たちも、法王がおっしゃることですから受けましょうということで、この政策を70年代からずっとやってきました」
 
――この状況が続いて、ダライラマ法王が病気になられたり、亡くなるようなことがあれば、抑える人がいなくなってしまう…
「だからこそ、ダライラマ法王は3月10日の声明の中で、中国政府の指導者たちはもう少し現実的になって、解決したい意思がもう少しあれば、私もチベットの人たちがまとまるような役目はこれからも果たしますということをおっしゃっているんですね」

――ダライラマ法王と中国政府との間に妥協が出来て、話がまとまれば、ダライラマ法王および今、インドにある亡命政府は、チベットに戻ろうということになるわけですか?
「それはダライラマ法王と亡命政府が、非常明確にしています。もし、チベットの内外のチベット人が一つになる、国に戻る時期になった場合には、今のダラムサラの亡命政府は自然になくなります。中にいるチベット政府は民主主義の下で選挙の責任者、総理大臣を選ぶ。法王ご自身も政府の立場からは離れます。もし、そのときの選挙でそういう指導者たちが、亡命政府の役人たちの経験、知識を求めるんだったら、私たちはいつでも協力をしますと」

――そういう日が早く来るようにと祈っています。

(写真は3月27日の特派員協会記者会見でのラクパ・ツォコさん)

 

Copyright 2006 © Shoko Egawa All Right Reserved.
CMパンチ:ホームページ制作会社:港区赤坂