第三者委員会の設置を〜拉致問題進展のために

2008年06月20日

 だから言ったのに……
 思わず、そんな言葉が口を突いて出た。
 どんなにアメリカを頼みにしていても、あちらは日本の都合より、自分の(あるいは自分たちの)都合を優先させるに決まっている。
 で、やはりそれが、現実になりつつある。
 ライス国務長官の発表で、アメリカが北朝鮮をテロ指定国家から外す段取りに入ったことが明らかになった。日本政府は、「アメリカの立場がこれまでと変わったわけではない」と言っているが、少なくとも、日本国民が理解していた「これまで」の「アメリカの立場」とは異なる方向に動き始めたことは間違いない。
 なにしろ、ブッシュ大統領の任期はあと半年ちょっと。アメリカ国民の関心は、すっかり時期大統領選挙にあるし、ヨーロッパに行っても、ほとんど反対デモさえ起きないほど存在感が薄らいでいる。
 しかも、任期中にイラクの平和は取り戻せず、それどころか憎きイランと仲良くしており、すっかり目算が狂った(でも、少しでもイラクのことを知っていた人は、そうなることは当初から分かっていた)。そのイランの核開発問題も思うようにならず、アフガニスタンもタリバンが盛り返しており治安が悪化。パレスチナ問題は、ようやくイスラエルとハマスが停戦合意したとはいえ、解決にはまだまだほど遠い。
 英紙ザ・タイムズのインタビューに対して、ブッシュ氏は「かかってこい」とか「(オサマ・ビンラディンが)生きていようが死んでいようが」などという表現を使ったことについて「私が平和的な人物ではないような印象を与えてしまった」と後悔している口ぶりで語ったそうだ、なんとか「戦争を起こした大統領」ではなく、「平和をもたらした大統領」というイメージを残したいブッシュ氏によって、今や頼みの綱は北朝鮮。「朝鮮戦争を終わらせた大統領」まではならなくても、「北朝鮮の核の脅威を平和に解決した大統領」になることはできると、「悪の枢軸」だの「ならずもの」だのと罵ってきた国に対して、寧辺以外はちゃんと点検したわけでもないのに、手を結ぼうとしている。
 日本国民の心配をよそに、米朝は妙に”いいムード”になっている。先般のNYフィルの平壌公演のお返しに、北朝鮮のオーケストラが訪米するという話も出回っているほどだ。
 日本の都合よりも、自分の評価が大事。憲法までないがしろにして、自衛隊をイラクに送り、「ブッシュの戦争」に参加させてまで協力してきた日本政府は、はしごを外された格好だ。
 北朝鮮を説得して、よど号事件の容疑者と妻らの帰国と拉致事件の再調査の約束をさせたのが、ブッシュ政権としては、日本に対するせめてもの「思いやり」ということなのだろう。
 
 本当にこれで北朝鮮の核の不安はなくなったのか。拉致問題に動きが出るのか。
 専門家の間でも、楽観論と悲観論が入り交じっている。
 しかし、よほどのことがなければ、米朝間の動きを止めることは難しい。
 この現実を前に、日本はどうしたらいいのだろう。
 アメリカのテロ支援国家指定解除の手続きには1ヶ月半ほどの時間を要する、とのこと。その間に、少しでも北朝鮮との間で、実のある交渉を進め、引き出せるものはすべて引き出していくしかない。
 そのためには、まずは一番の難問を優先して対応することだと思う。
 
 日朝の交渉が膠着状態になったのは、拉致事件の被害者横田めぐみさんを巡る遺骨問題からだ。日朝間の様々な懸案を少しでも進展させようと考えれば、この問題に一定のけじめをつけなければならない。そうでなければ、国民は納得しないし、政府も具体的な行動を起こしにくいだろう。
 北朝鮮側はめぐみさんは亡くなっていると説明し、彼女の遺骨だという人骨を日本側に渡した。それに対して、日本側は複数のDNA鑑定を行ったが、その一つの結果から「別人の骨」と断定。「ニセモノの遺骨」を渡したとして、北朝鮮側を激しく非難した。北朝鮮も態度を硬化させ、以後は「拉致問題は解決済み」を繰り返すだけで、まったく交渉は進展していない。
 日本側の鑑定には、イギリスの科学誌「ネイチャー」が疑問を投げかけている。同誌は鑑定を行った法学医にインタビューを行い、こう書いた。
<吉井氏は、今回の鑑定が確定的なものではないこと、そして鑑定試料に他人のDNAが混ざり込んでいる可能性があることを認めた。「試料の骨は硬いスポンジのような状態で、いろんなものがしみ込んでしまう可能性があります。この骨を扱った誰かの汗や脂を吸い取ってしまえば、どうやっても取り除くことはできません」と吉井講師は述べた。
>(同誌05年2月3日号)
 スポンジ状になっていたのは、高温で焼かれたためで、遺骨に触れた人の汗や脂、フケなどを吸着することで、他人のDNAに”汚染”される可能性がある。結局、この鑑定から分かるのは、^箙からは横田めぐみさんのDNAは検出されなかった 二人の別人のいDNAが検出された、というに過ぎずない。「遺骨は別人のもの」と断定するには、検出されたDNAが遺骨に触れた人の汗や脂、フケに由来するのではない、ということがきちんと示されるなど、何らかの補強証拠がなければならないが、それに関する情報は、明らかにされていない。
 他にも、高温で焼いた骨から本人のDNAが検出されることへの疑問を述べる法医学者もいた。しかも、『ネイチャー』誌のインタビューの後、鑑定を行った吉井氏は、帝京大学から警視庁科捜研に”天上がり”してしまい、警察が盾となって、他のインタビューをさせなかったり、遺骨を巡る他の鑑定結果が公表されないなど、一連の不透明な対応は、日本側の主張の説得力を著しく損なっている。
 とはいえ、北朝鮮が言うような、この遺骨が横田めぐみさんのものであるという証明もなされていない。生存を信じて救出運動をつけている家族や多くの国民は、こんなはっきりしない状態のまま、北朝鮮の説明を安易に受け入れることは、到底できない。そういう国民世論を背負っている日本政府としては、この問題で譲歩することは不可能だ。
 一方の北朝鮮としても、一度は公表した「死亡」を自らひっくり返すとは考えられない。
 どちらも振り上げた拳を「自ら」引っ込める可能性はないのだから、これは第三者委員会のような組織を作って、客観的かつ専門的な立場で検証をしてもらうしか道はないのではないだろうか。
 具体的には、日本と北朝鮮がどちらも国交を持っており、この問題には第3者であり、しかも日本と同等の技術を持つ西欧か北欧の国々の中から法医学の専門家を出してもらった検証チームに、日本の鑑定や北朝鮮の説明を精査してもらう。場合によっては、日朝それぞれに近い立場としてアメリカと中国を入れてもよい。この検証チームが出した結論に従って、今後の交渉を進めると、あらかじめ日本と北朝鮮の間で約束を交わしておく。
 そうすれば、国としてはこの問題に一応のけじめをつけて、次のステップに進んでいくことができる。遺骨は「別人のもの」であることがはっきりすれば、北朝鮮のひどさを国際社会に訴え、真実を語れと迫っていく力になる。今まで以上に北朝鮮に対して強硬な姿勢で臨んでもいいと思う。もし、日本側の期待に反する結果たどすれば、なぜそういう悲劇が起きたのかなど、事実関係についての北朝鮮側の説明を検証していく調査を求めていく。その際も、第三者的な立場の人を入れて、徹底的な事実の解明を行うようにする。
 このように、第3者の力を借りる方法をとる以外、この問題を進展させる手立てはないように思う(本来は、鑑定そのものを第三国の機関に依頼すべきだったと思うが)。 
 そして、せめてアメリカがテロ支援国家の指定解除の手続きが終わるまでには、検証チームのメンバーを決めるくらいまではやってもらいたい。次の大統領が誰になるか分からないが、その人に期待をかけ、またアメリカ一国を頼みにしてずるずる時間を要するのは、愚の骨頂だ。日本政府には今度こそ、世界地図の右側(アメリカ)だけを見るのでなく、左側(ヨーロッパ)をもっとよく見て欲しい。そして、今回のブッシュ大統領の”心変わり”を、むしろ新たなステップに踏み出す機会ととらえて、迅速な対応をするよう、強く望みたい。

Copyright 2006 © Shoko Egawa All Right Reserved.
CMパンチ:ホームページ制作会社:港区赤坂