肩代わりのワケは

2008年10月29日

 10月29日付読売新聞夕刊が次のように伝えている。

<北朝鮮の核問題を巡る6か国協議の日米首席代表会合が28日午後(日本時間29日午前)、ワシントンの米国務省で開かれた。
 米側は、日本政府が拉致問題で進展がないことを理由に拒否している北朝鮮への経済・エネルギー支援の日本負担分(重油20万トン相当)をオーストラリアなどに肩代わりしてもらう方針を説明し、日本側は容認する考えを伝えた>

 オーストラリアはすでに前向きな姿勢を示しており、他にニュージーランドも協力を検討しているようだ。
 この2国は、日本への好意や北朝鮮の人々に対する人道的な善意から、損を覚悟で身銭を切ってくれようとしている……はずがない。北朝鮮には実はレアメタルなどの鉱物資源が豊富に眠っているとも言われるし、東アジアでの存在感を示すことに、少なからぬメリットを感じているからこその協力で、自国の利益を考えれば重油20万田度は安いもの、という計算があってのことだろう。
 おかげで、日本が負担分を拒否しても、北朝鮮はちっとも困らない。それどころか、日本を無視する口実が増えるだけだ。対北朝鮮だけでなく、地域内での日本の存在感はますます弱まっていくだろう。
 冷静に、理性的に考えれば、六カ国協議で決まったことは、日本は粛々と誠実に守り、北朝鮮に対しても守っていくよう他の4カ国と歩調を合わせて要求していく方が、はるかに賢い選択といえるだろう。六カ国協議の枠組みの中で北朝鮮に対して、核を放棄し、日本を含めた国際的な査察団の受け入れを求め、拉致問題についても再調査の実行を要求していく方が、少なくとも日本外しをされるよりははるかにマシで、日本国民の利益に叶っている。
 しかし政府は、つい最近のアメリカによるテロ支援国家指定解除を受けた国民の反発が気になるのだろう。いずれ行われる総選挙を考えると、拉致問題の進展がないまま北朝鮮にびた一文たりともやりたくないという国民感情を逆なでするのを恐れる自民党の利益が、国益に優先している格好だ。
 北朝鮮側から、「六カ国で約束したことを、日本は果たさない。だから北朝鮮も約束を守らない。査察に日本が加わるのは断る。拉致問題の再調査もやめた」と言われたら、日本政府はなんと反論するのだろう。
 日本一国が経済制裁を強めても、何の意味も効果もない。北朝鮮から、むしろ公然と日本外しができてせいせいした、という態度をとられたのでは、報復感情さえ満たされないだろう。 
 国民も、「しゃくに障る」という感情だけで判断し、北朝鮮に対する憤りや鬱憤を日本の政府に向けるべきではないと思うが、それ以前に国民感情に引きずられた判断しかできない日本政府のありようが、あまりにも情けない。
 「私は逃げない」と強がりを言っている麻生首相だが、たとえ国民には不人気であっても長期的には国の利益になる判断を敢然と行うことからは、完全に逃げている、と言わざるを得ない。国民の理性を信頼し、言葉を尽くして説明し説得するという、政治家としてもっとも大事な仕事からも逃げている。
 民主主義の政治とは、国民感情を恐れ、国民感情におもねり、国民感情に従うことではない。強いリーダーシップとは、内向けに威勢の良いことを言ってみることでもなければ、ましてや与党の党首や年若い記者に対し、けんか腰でまくし立てたり相手を見下してみせたりする態度をとることを言うのでもない。そういう態度は、逆に人間としての度量の小ささを印象づけるだけだ。
 重油20邸別鵤隠僑芦円相当)の負担を拒んだ日本は、他の国々にどんな印象を与えたのだろう。それも少し気になる。

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