警察の弱い者いじめ

2008年10月31日

 まずは、当局発表を伝える新聞記事から。
 
<インターネットなどで麻生太郎首相の私邸見学を呼びかけていたグループが26日午後、東京都渋谷区で麻生首相宅に向けて無届けのデモ行進を行った。中止の警告を無視したことなどから、警視庁公安部は、デモに参加していた男3人を都公安条例違反や公務執行妨害の現行犯で逮捕した。
 公安部によると、約40人が同日午後3時ごろに渋谷駅ハチ公前広場に集合し、デモ行進を始めた。警視庁が中止するよう警告を繰り返したが、グループは無視してデモ行進を続けたという。>(10月27日付産経新聞)
 
 このグループとは、フリーター全般労働組合などで作る「反戦と抵抗の祭り<フェスタ>」実行委員会。「リアリティ・ツアー 第2回:62億ってどんなだよ。麻生首相のお宅拝見」と銘打って参加者を募り、同労組が麻生首相宛の団体交渉申し入れ書を用意していた、という。
 ちなみに「リアリティ・ツアー」の一回目は今年の初夏で、目的地は日雇い派遣会社の大手だったグッドウィルの折口会長宅。
  
 同労組によれば、今回の催しは届け出の必要な「デモ(集団示威運動)」ではなく、62億もする麻生邸を見に行く「ツアー」であり、折口宅の時にも警察から何の注意もなかった、という。当日は、渋谷警察署の警備責任者と路上で話し合い、(眛擦鯤發こと、▲瓮ホンやスピーカーの類は使わない、4や横断幕は掲げない、に秬古,料阿錬疑幼度ずつ通過する――といった指示を受けた。一行がその指示に従ってメガホンの電源は切り、旗もしまって歩いていたら、私服の公安警察官が「コーボー、コーボー(公妨=公務執行妨害)」と叫び、その指示に従って制服警察官が3人に襲いかかって逮捕したのだという。ただの一度も、「デモ中止」の警告は発せられておらず、みんながただ歩いていただけなのに、突然逮捕された、とのこと。
 
 言い分は警察当局と真っ向から食い違う。
 
 警察の逮捕に抗議する人たちが、当日の様子を録画したビデオが何種類か公開している。
 それを見ると、制服警察官とは特に問題なく穏やかに話し合いをしているし、警察官の側にも格別の緊張感は感じられない。
 私服の公安警察官が、同僚と「誰かに警告をさせないと…」などと打ち合わせている場面も映っている。だが、どのビデオにも、警察が中止を警告する声は入っていない。警察側もビデオを撮っていたようなので、その映像を見てみたい、という気がする。
 そして、催しの参加者と一般通行人と警察官とビデオカメラを持った人たちが混在する中、A3大くらいの紙製の看板のようなものを掲げて歩いていた主催者の男性が信号で止まった時に、前から私服の公安警察官が前から抱きつくような形で押さえられた。その直後、誰かの「よし、やるぞ」という声が聞こえ、制服警察官がどっと画面に入ってくる。公安警察の現場責任者らしき男性が人を指さしながら「コーボーだ、コーボーだ」「押さえろ、押さえろ、あれを押さえろ」「(あの男を)持ってこい、持ってこい」と怒鳴り、制服警察官に次々に指示。制服警察官が参加者を取り押さえ、引きずっていく場面も映っている。
 だが、どういう公務に、どういう妨害があったのか、よく分からない。
 最初に公安条例違反(無届けデモの主催)で逮捕された男性は、複数の警察官に囲まれて、すぐに引き倒され、地面に転がった。あれでは周囲も抵抗するヒマさえなかっただろう。乱闘が起きている様子もない。その後、別の引きずられていく男性に追いすがる人も2人ほどいたようが、たった1人の私服警察官にいとも簡単に切り離され、置き去りにされる非力さである。
 公安条例違反で逮捕された男性が持っていた看板らしきものというのも、ホームページのイベント告知かなにかを拡大コピーして、ダンボールに貼り付けたようなシロモノ。字が細々と書いてあってビデオの画面ではまったく読めないし、スローガンを大書したようなメッセージ性はない。おそらく、人出の多い日曜午後の渋谷で、参加者が迷わないよう、主催者が目印で持っていたものだろう。
 この程度の行為が「集団行進」や「集団示威運動」の「主催」として逮捕されるのであれば、旅行会社の観光ガイドは、軒並みしょっ引かなければならない。
 横断幕もシュプレヒコールもないこのイベントは、「多くの人々が公然と意思を表示し、威力を示す」という「集団示威運動」と見るには、、あまりに貧弱で存在感がない。むしろ、若者の街で、いかにも公安といった風体の中年の私服警察官たちの妙な動きや多数の制服警察官の物々しい警備の方が、ずっと強烈な存在感を放っている。
  
 何か危険な行為を企てている兆候でもあるなら、あらゆる法律を総動員して取り締まろうという公安当局の意気込みも分からないではないが、そんな状況でもない(そういう懸念があるなら、人混みの多い休日の渋谷に、彼らが集まってくる前に、何らかの容疑を作って強制捜査くらいはやっているはずだ)。
 しかも今回のイベントの規模は、参加者は当局発表で40人、主催者発表でもたかだか50人。それで、ここまで大がかりで強引な逮捕劇とは、いかにも寄ってたかって弱い者いじめをしているとしか見えない。
 
 フリーターのような非正規雇用の労働者は、企業の労働組合にも入れず、劣悪な労働環境に置かれ、格差社会の底辺を形勢してきた。
 雇用された労働者の3分の1が、今や非正規雇用。男性の非正規雇用労働者のうち56%が年収200万円以下。
 そういう社会的弱者である彼らを、逮捕や捜査という強い権限を託された警察が狙い撃ちする。この警察の行為は、いったい誰の、何の役に立っているのだろう。
 
 この催しは、主催者がインターネットなどで事前に告知しており、当局に隠れてこっそり準備されていたわけではない。
 警察としては、今回のイベントには申請を出すべきだ、という判断ならば、事前にそのように指導すればよかったのだ。
 それが何もなされなかったどころか、直前に制服の警察官が、「車道はダメだよ」「麻生邸の前を通る時は5人くらずつで」といった指導をしており、彼らのイベントを事実上容認している。
 にもかかわらず、いきなり私服の警察官がいきなり逮捕するなんて、いくらなんでもフェアでない。
 まるで標識のない道路で、交通整理のお巡りさんの指示に従って運転していたドライバーが、その先に隠れていた覆面パトカーに「この道は侵入禁止だ」と捕まられたようなものだ。
 
 こんな弱い者いじめに人を割くほど、公安部には人員が余っているのであれば、警視庁は犯罪捜査か交番に少し人を回した方がよい。

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