「民あってこその国」を忘れずに〜総選挙での民主党の大勝を受けて

2009年09月01日

 待たされて待たされて、ようやく行われた衆議院議員総選挙。
 結果はすでに報道されている通り。民主党の圧勝だったが、事前には民主党が320議席に達する勢いという世論調査結果が報道されていたことを考えると、若干は揺り戻しがあったのかもしれない。
 今回の選挙について、「逆風」の強さを原因に挙げる自公の候補者が多い。国民の今度の選択が、単に「風」に吹かれてなびいた結果と認識しているのかと、呆れてしまった。中には、「災害」ととらえた候補者もいる。自分たちには責任はなく、たまたま暴風雨に巻き込まれてしまった、という被害者意識でいるらしい。
 また、政治学者らが「国民は民主党を支持しているわけではなく、自民党への失望感の受け皿となっただけ」「民主党の勝利ではなく、自民党にお灸を据えた」というとらえ方をするのにも、ちょっと違和感がある。そんなネガティブな動機だけであれば、今回のように7割近い投票率にはならなかったのではないか。
 これまでの政治は、国民の「命」のためにはなかなか動かないが、「経済」のためには動く、というものであった。例えば、中国の四川大地震で、学校が倒壊してあれだけ悲惨な被害を出したのを見せられても、日本の政府は学校の耐震化工事を進めようとしなかったのに、景気対策が必要となると予算がついた。長い選挙戦の間に、国民は「経済成長」を第一に掲げる自民党と、最も守るべきものとして「命」を挙げた民主党を比較し、後者を選択したのだ。
 「国あっての民」ではなく、「民あってこその国」を信条とする国造りをしてもらいたいとという期待を込めて、民主党を選んだ人たちが多かったのだと思う。
 だから、新しい政権が、そうした方向性からずれれば、人心はすぐに離れていくことを、民主党の面々には、よくよく自覚してもらいたい。
 
 開票速報を見ていて思ったのは、民主党の幹部に笑顔が少ないこと。今後の人事や政権を担う責任の重さを感じてのことかもしれないし、「いい気になるな」という批判を心配してのことかもしれない。当選者のバラつけの時くらい、カメラマンから要求されなくても、もう少し笑顔を見せればいいのに。なので、「人事を巡って幹部の間がしっくりいってないのではないか」という憶測も出たほどだ。
 小沢代表代行など、何が気に入らないのか、テレビの中継で不機嫌そうに質問者をしかりつけていた。画面に大写しになった小沢氏の仏頂面を見ていると、自分が怒られているようで、愉快ではなかった。目の前のテレビカメラの向こうには大勢の国民がいることを、未だに理解していないのではないか。小沢氏が献金問題で代表を降りたのは、民主党にとってはむしろ幸運だったのではないか、と思う。
 鳩山代表の表情も硬く、「数におごらず」「謙虚に」を繰り返していた。鳩山氏の人柄のよさは感じる。国民の負託を緊張感を持って受け止めているという真面目さも伝わってくる。そういう意味では、鳩山氏のコミュニケーション能力は高い、と思う。でも、一方でいささか物足りない。政権移行チームを作ってすぐにでも動き出すと期待していたのに、いささか慎重に過ぎるのではないか。これだから、「小沢氏が影の首相になり、鳩山内閣は小沢傀儡政権になる」といった憶測が飛び交うのではないか、という気もする。
 国民は、鳩山氏の言葉を聞き、鳩山氏の顔を表紙に掲げられたマニフェストを読んで、民主党に308もの議席を与えたのだ。もっと自信をもって、自分こそが大胆に政治を変えるのだという強い決意を態度で示してもらいたい。
 かつても、小渕元首相のように、人柄のよさを売りにしているリーダーはいた。小渕氏の場合、誠実さゆえに、いろんな人たちの話を聞き過ぎ、配慮をし過ぎて、ストレスをため込んで命を縮めたのではないか、と思うくらいだ。
 それはそれで一つのリーダー像かもしれないが、雇用が悪化しつづけている今の危機的な状況下では、どうだろうか。なるべく早く国民が何らかの「変化」の兆しを実感し、「これから日本はいい方向に変わるのではないか」という希望を持てなければ、人心はすぐに離れる。支持率と共に政権内の求心力も下がり、政局が不安定となり、挙げ句に、またもや1年で政権が放り出されるような事態になってもらっては困る。なにしろ日本は毎年のように首相が代わり、G8サミットにも毎回違う人を送り出さなければならない状態が続いた。これでは、国際的な立場を向上させることなどできるはずもない。
 そういう事態を作らないためも、鳩山氏には、ある程度の強引さ、批判に耐える”ほどよい厚かましさ”が欲しい。
 
 不安材料は、いくつもある。たとえば308議席のうち、半数近い143議席が新人。鳩山氏は「だからこそ、しがらみのない政治ができる」と言うけれど、官僚組織に切り込んで行くには、かなりの知恵と力量が必要で、経験ゼロの新人議員がおいそれとできるとは思えない。民主党の先輩議員たちは、1日も早く戦力となるよう、それこそマンツーマンに近い形で新人を鍛えてもらいたい。ただし、国民は新人が一人前に育ち上がるのをじっくり待っていられないかもしれない。当面は、各分野で秀でた民間人に協力を求めてしのいでいくしかないだろう。
 今後、財源などを巡って、マニフェストが必ずしも予定通りに実行できない事態も出てくるかもしれない。また、議論をしてみて、政策を一部変更した方がいい、という場合もあるだろう。そういう時には、柔軟な変更をためらうべきではない。たとえば、高速道路の無料化など、環境問題への懸念を考えると、果たして今やるべき事柄なのか、と思う。そうした意見は、民主党を支持した人たちの間にも多いはずで、意固地になって推し進めるのではなく、立ち止まって再検討することも必要ではないか。
 約束事が変更になった場合は、変に取り繕ったりせずに、なぜ変更するのか、その後どういう方向に進もうとしているのか、国民に対して正直かつ丁寧に説明をすればよいのだ。
 実際の政治はテレビの討論番組ではないし、反射神経を競っているわけではないのだから、質問に対して、必ずしも即答をしなければならない、というわけでもない。すぐに判断できないことについては、拙速に答えを出そうとせずに、「こういう問題について検討しているので、もう少し待って欲しい」と国民に告げることもあり、だと思う。
 もちろん、迅速な対応をしなければいけないことは少なくない。しかし、日本の仕組みを変えていこうという時には、迅速さよりも、正しい方向に進んでいくことが大事だ。「スピード感」が強調された小泉時代、「改革」のスピード感に酔っているうちに、気づいてみたらとんでもない所に来てしまったことを思い起こしたい。スピードよりも、進んでいる方向性が間違っていないかを確認したり、何か問題が起きていないかを起こしていないかを確かめることの方が、はるかに大事ではないか。
 国民はすぐに結果を求めたがる。けれども、すぐに結果が出せないこともありうるだろうから、そういう時には誠実に進行現状を説明し、理解を求めていくことが大切だ。
 そのためにも、政権を担う政治家には言葉を大事にして欲しい。小泉元首相のワンフレーズといい、その後の首相たちの発言といい、国民に対して意を尽くし、言葉を尽くして説明しようとするものではなかった。それに慣らされたのか、メディアの影響なのか、国民の側も、すぐに結論を短い言葉で言ってもらいたがる傾向がある。
 けれども、大事な問題は一言二言で語り尽くせるものではない。鳩山氏は、少なくともここ4代の首相に比べると、長いセンテンスで国民に届く言葉を語れる人ではないか、という期待はある。
 国民も、政権交代を選択したからには、拙速に結論ばかりを求めるのではなく、腰を据えて政治家の言葉に耳を傾け、進行方向を間違えていないか、じっくりと見定める覚悟を持ちたい。
 
 今の自民党の状況も不安材料の一つだ。
 自民党は、民主党政権をチェックすべき最大野党であると同時に、再び政権交代を可能にする存在でなければ、いずれ民主党政権は堕落していくだろう。
 だからこそ、自民党には政権を担う能力のある政党として再生してもらわなければならないが、そのためには今回の負け方は中途半端と言わざるをえない。
 数の問題ではない。
 生き残った議員の名前を見ていると、自民党が国民の負託を受けられる政党として再生するのは難しいのではないか、と思ってしまう。
 たとえば、日本の政治を劣化させた最大の(というか、最悪の)責任者である、森、安倍、福田、麻生各氏の首相経験者が小選挙区で当選した。中川秀直、小池百合子、武部勤各氏ら”小泉改革”を推進した人たちが、比例で復活した。二階俊弘、古賀誠両氏ら”利益誘導型政治”の象徴ともいえる人たちが残った。高市早苗、稲田朋美両氏ら右翼イデオローグもいる。そのうえ、小泉ジュニアなどの世襲議員が全当選者の46%を占めた。
 これで、いったいどういう政党として再生するというのだろう。
 
 自民党は、次の総裁を選ぶ選挙を9月28日に行う、という。しかし、特別国会による首班指名は9月中旬に予定されている。
 麻生氏の名前は書きたくないという人も少なくないようだし、首班指名では白票を投じるという案も出ているそうだ。2週間程度の時間があるのに、自分たちの代表者も決められないところに、自民党の混乱ぶり、再生への道の険しさを見て取れる。 
  
 今の民主党は新鮮に見えるが、一つの政党が肥大化して長く政権の座に就けば、かつての自民党のように派閥ができ、国民の目に見えにくく関わりにくいところで、権力闘争が行われる、というようになりかねない。
 また、民主党の政治が方向を誤った時に、今度は国民に政権の選択肢がない、という事態になってしまうのは不幸だ。
 なので、民主党の政権には期待しつつも、自民党にもしっかりして欲しい。今の自民党の体たらくは本当に心配だ。
 
 民主党には政権与党としてまっとうな政権運営をしてもらいたいし、自民党にはまっとうな政党として再生してもらいたい。そういうスタンスで、これからも言うべきことは言っていくつもりだ。とりあえずは、今後の民主党政権の人事、自民党の新総裁選挙に注目してきたい。
Copyright 2006 © Shoko Egawa All Right Reserved.
CMパンチ:ホームページ制作会社:港区赤坂