常岡浩介さんへのツイッターインタビューより
2010年04月19日
ジャーナリストの常岡浩介さんがアフガニスタンで消息を絶ってから、まもなく20日になります。何者かに誘拐されたという発表があり、その後杳として行方は分からないまま。無事だという未確認情報は流れたけれど、あくまで未確認情報であって、どういう状況に置かれているのかは判然としません。
ご自身もムスリムであり、海外の紛争地域など難しい状況での経験豊富な常岡さんのことなので、大事には至っていないと信じますが、長引くと、やはり心配。ご家族や愛猫のことを思うと、早く無事が確認されることを祈ります。
現地で途中まで同行されていた中田考・同志社大学教授のツイッターは、今回の常岡さんのアフガン行きの目的を次のように書いています。
<常岡さんと私がアフガニスタンに行ったのは、この戦争を終わらせるためにアフガニスタン・イスラーム首長国の最高指導者ウマル師との交渉の糸口を見つけるため>
そのために、外国人と分からないようにして潜伏したり、タリバン関係者と面談したりしていたようです。その合間に、現地の状況をツイッターやブログで伝えていました。私のツイッター・インタビューにも丹念に答えてくださっています。
すでに一部がtogetterでまとめられていますが、ダイレクトメール(DM)でのやりとりの一部も含めて、ここでまとめておくことにします。
3月23日
朝日ニュースター「ニュースの深層」(キャスター上杉隆&重信メイ)に電話出演後
江川 見(聞き)ました。お会いになったタリバン幹部は、和平交渉はしないというのであれば、今後どうしたいorどうなる、と言っているのですか?交渉しないのは本心だと思いますか?イラクでは本心より強いことを言う男たちが多かったですが、タリバンなどはどうなのかしら…
常岡 ザイーフ師は、交渉は無駄だ。戦って勝つ、という姿勢なのだと思います。戦闘でタリバン側が圧倒的有利なので、そう考えるのでしょう。米国の「18ヶ月後の撤退」についても、全く信用できないということでした。
江川 米側や政府側が劣勢の時に和平交渉言い出しても、足元見られるだけってことなのかしら
常岡 ただ、それがタリバンの総意なのかは謎です。和平交渉の全面に立っているムタワキル師とは今回、まだ会えていませんし、ザイーフ師は日本の和平仲介努力も知らないようでした。
江川 では、まだ決めつけることはできないですね。今後の情報を待っています
常岡 去年はザイーフ師も和平交渉を支持していたので、先のマルジャ攻略戦とバラダル師拘束が和平への機運を潰してしまったのだと思います。
ちょっと気になるのが、18日に入国以来、タリバン側の和平交渉当事者の誰一人、なぜか連絡が取れないことです。電話しても呼び出しっぱなし。カルザイまたは米欧軍当局の情報遮断でなければいいんですが。実は、日本の犬塚議員も連絡が取れなかったと話していました。
江川 秘密裏に交渉準備に入っている、という可能性は?
常岡 交渉は去年から続いていて、それがバラダル師拘束で妨害された、ということのようです。去年は簡単に連絡が取れましたから、なにか状況の変化があったのか?
江川 ありがとうございます。また常岡さんのお仕事に支障のない時に、いろいろ教えてください
3月25日
(DMでその日の常岡さんの行動について話を聞きました。その中で、常岡さんが「オマル師と和平の話をしなければいけないのですが、彼に繋がる人物に辿り着くのが一苦労です」と書いていたのに続いて、以下のやりとりがありました)
江川 初歩的な質問で申し訳ないんですが、オマル師って本当に生存していて、最高指導者としてメンバーを指導し、その指示命令はちゃんと末端に正しく伝わるような状況なのでしょうか…
常岡 オマル師の生存は間違いないみたいです。命令系統も存在していますが、主要な指導層はパキスタン国内にいて、パキスタン軍諜報機関の強い影響を受けているようです。
江川 オマル師とパキスタン国内にいてパ軍諜報機関の影響を受けている指導層では方向性は一致しているの?
常岡 オマル師自身、パキスタンにいて、パキスタン諜報機関の監視・保護下にいるようです。そこで幹部会議なども開催されているようです。タリバン側は、自分たちはもはやパキスタンのかいらいではない、と主張していますが…。
江川 となると、和平交渉のための工作は、アフガニスタンよりもパキスタンで行った方が効果的、って傍目には感じたりもしますが、どうなのかしら
常岡 おっしゃる通りです。が、先日のバラダル師の拘束で、パキスタンが和平プロセスを妨害している実態が明白になりました。国際的な圧力が必要かと。
つまり、タリバン自身は和平を望んでいるが、それを保護、管理しているパ当局がそれを許さないという図式のようです。もっとも、米軍マルジャ作戦とバラダル師拘束でタリバン自身も和平を断念しつつあるようです。
江川 タリバンが望む「和平」って、どういう状態? 9.11以前のアフガニスタンに戻すことを求めていくのかしら?
常岡 タリバンは外国軍の即時撤退を求めています。その前提として、和平交渉を始める土台作りとして、タリバン幹部の国連制裁リストからの解除や、捕虜を(違法に)収容しているバグラム刑務所の管理権のアフガン政府側委譲を求めています。後者の2つは部分的に実現しつつありました。(続きます)
米国が要求するだろうアルカーイダとの絶縁については、ムタワキル師は「受け入れ可能だ。もはや彼らはアフガニスタンの客人ではないから」と、していました。アルカーイダの行った911事件のために、アルカーイダのいなくなったアフガニスタンで米軍とタリバンが戦うのは無意味だ、という意見です。
江川 このやりとり、差し支えない範囲でDMじゃなくて、TL上でやりません?そうすると、多くの人たちに伝わるし
常岡 そうですね。では、あとはTLでお願いいたします。
江川 アルカーイダとの絶縁について、常岡さんがインタビューしたムタワキル師は「受け入れ可能だ。もはや彼らはアフガニスタンの客人ではないから」と、していた、とのこと。初歩的な質問で申し訳ないのですが、アルカイダであり、かつタリバンという人はいない、と考えていいのかしら
常岡 アルカーイダは外国人の反米武装組織で、タリバンはアフガン人ローカルの自国改革を目指す運動組織です。協力関係はありますが、構成員も組織も全く別です。
江川 縁を切るということになれば、アルカイダ系のにはアフガニスタンを出て行ってもらう、ということ?
常岡 そうです。そもそも、アフガニスタン国内にはアルカーイダはもはや100人もいないそうです。海外に出たアルカーイダが再び国内で活動することを認めない、という約束になると思います。
江川 さっき「パキスタンが和平プロセスを妨害している」とおっしゃっていましたよね。パキスタンは、なぜ、どのように妨害を?
常岡 去年だったか、パ軍諜報機関トップが「米国とオマル師の和平を仲介する用意がある。ただし、カシミール問題で米国がパ国を支援することが条件」と、発言しました。パ当局はあくまでアフ国の戦争とタリバンを自国益に利用したいのでしょう。だから、パ国を介さない独
自の和平プロセスを妨害するのだと思います。パ国内ではむしろアルカーイダがパキスタン・タリバン運動とともに「開放区」を作っていますし、アフ国、パ国からカシミールまで、問題は複雑に絡み合っています。
別の方 ということは、アルカーイダ義勇兵は隣国パキのTTPへ合流しているのでしょうか?横からスミマセン。
常岡 そうです。アルカーイダの主力はパ国のワジリスタンにいます。パ・タリバン運動は大っぴらに、「アルカーイダを支援する」としています
江川 ホント複雑ですね。だから、対応が難しいんですね。そのパキスタン・タリバン運動とアフガニスタンのタリバンとは提携しているわけですか?
常岡 協力していますが、やはり方針も組織も別です。TTPは世界革命論に傾いているようです。アフ・タリバンはパキスタンに侵攻したりしませんが、TTPはアフガニスタン国内でも活動しているそうです。
江川 米国がアフ・タリバンにパキ・タリバンとの絶縁を求めたら、どうなるかしら。あと1つ、NATOがいなくなると、タリバンが国を支配して、再び以前のような状態、たとえば女の子の就学が難しいとか、名誉殺人など、女性の人権が脅かされる状態にならないでしょうか
常岡 TTPはアフ・タリバンよりパ国諜報機関と複雑に関係を持っています。米国もそれは理解して、パ国への圧力という形でTTPに対処しようとしているようです。和解なしに米国が撤退した場合、アフガニスタンが再び内戦に逆戻りするのは間違いないと思います。(続きます)
内戦を避けるためには、米欧軍とタリバンが和解して、アフガニスタンを国際社会から孤立させず、見捨てないことが必須ですが、現状では米国は18ヶ月後にあとは野となれで一方的撤退をするつもりのようです。(まだ続きます)
女性の人権や名誉殺人といった諸問題については、現在すでに最悪の状況です。メディアのプロパガンダで、女性迫害の責任がタリバンだけにあるように宣伝されましたが、実際にはアフガニスタンのあらゆる勢力がそれに関わっています。その原因は世界最悪の教育水準にあります
3月27日
常岡 イスラハ神学校でなぜか講演したなう。ちびっ子からおぢさんまで100人ぐらいのタリバン(神学生たち)に喝采していただいた。
江川 講演のテーマは?
常岡 外国の侵略に対しては、君らは最強だ。米国にも余裕で勝つだろうと私は心配してない。しかし、その君らがイスラム教徒同士殺し合うのは重大事だ。思うに、君らは世界から孤立した中で周りを敵に囲まれていると感じたと思う。しかし、あなた方の(続
友人は世界中にいる。キリスト教徒や仏教徒の中にも友人がいる。非力ながら私もアフガニスタンの友人を増やす努力をします。だから、敵ばかりではなく、世界に友人がいっぱいいると考えて手を差し伸べて欲しい、というような話をしました。
上空を米軍ヘリがひっきりなしに低空飛行する中で、タリバンと同じデオバンド派の神学生たちとイスラム神学のお勉強会をするなんて、シュールすぎだったかも?
他の方の質問に答えている様子も含めてご覧になりたい方は、こちらをどうぞ→http://togetter.com/li/10938
なお、常岡さんのツイッターアカウントは@shamilsh
こちらからアクセスできますhttp://twitter.com/shamilsh