文科省、未だ学習せず―モニタリングポストの誤測定問題
2012年11月15日
空間放射線量を測定するためのモニタリングポスト(MP)で実際より低い値が公表されていた問題。私の見落としかもしれないが、一部の地方紙を除いて、肝心の点について論評した報道が見受けられなかったので、いささか時期遅れではあるが、ここで書いておくことにしたい。
発表があったのは、今月7日。文部科学省が福島県に545台、宮城や山形などの近隣6県に計130台、合計で675台の「可搬型モニタリングポスト」全ての測定が、実際より約1割低い数値だった、という。その原因は、装置の脇に置かれたバッテリーが、地面からの放射線の一部を遮蔽していたこと。同省は、今月12日からバッテリーの位置をずらす改修工事を始め、来年2月末にはすべてのMPで工事を終える、としている。
同省放射線環境対策室によれば、MPは4月までに設置を終えたが、5月中頃から住民や自治体から、実際より測定値が低いのではないかという声が寄せられ、同月末から調査を始めた。専門家を入れて検討した結果、200地点で調査を行うことになり、7月いっぱいで終えた。その後、試験などをやって8月中には原因が判明し、対策を検討。9月初めから業者の選定や作業スケジュールなどの調整、自治体への説明を行い、11月7日に発表の運びとなった、という。
つまり、7月いっぱいには、数値が約1割低いということは分かっていた。8月末までには原因や対策も明らかになっていた。であれば、なぜ、その時点でその旨を発表しなかったのだろう。
同室の回答はこうであった。
「丁寧にやっていた、ということです」
丁寧に、何をやっていたの?ー重ねて聞くと、数時間後に回答があった。
「いつまでに工事が終わるかまで、きちんとご説明できるように、ということで、丁寧にやっていました」
要は、問い合わせに対して、現状、原因、対策、対策終了時期まですべて回答がそろってから公表することにした、ということらしい。
対策終了の見通しまでそろえた模範回答が準備できていなければ、あれこれ追及を受けたり、何度も問い合わせがあったりする煩雑さは分からないではない。が、そういう役所の判断や都合で不正確な数値を放置していれば、国のデータに対する国民の信頼が損なわれる。当然、批判も出る。そんな基本的なことを、原発事故が起きてからこれまでの間に、彼らはまだ学習していなかったのか…。
今の福島の測定地点の多くでは、1割の誤差といえば0.01〜0.02μSv/h。それによって住民、自治体の放射線対策や人々の健康に変更や影響が出ることはないだろうが、そんなことは、何の告知もないまま正確ではない数値を3か月以上も出し続けてよい理由にはならない。
「丁寧に」回答づくりをしている間に、環境保護団体などが独自に測定を行い、MPの計測値の低さを指摘。中には、「国は意図的に低く見せようとしている」「データを捏造している」などといった批判も出た。今回の場合、分かっていながら発表を遅らせたのだから、文科省がこういった批判を浴びるのは仕方がない。懸念されるのは、それによって国民のデータに対する信頼が低下すれば、一層不安を感じる人もいるだろうし、瓦礫処理や風評被害対策など、様々な面でも影響が出かねないことだ。
幸い、福島県の人たちを含め、多くの国民は、今回の問題を冷静に受け止めているように思う。ただ、その冷静さの中には、「またか…」「いかにも…」という冷ややかな諦観も含まれているのではないか。
なお、MPには他に「固定型」と「リアルタイム」の2種類があり、それぞれ全国に250台と2700台置かれ、そのうち福島県に設置されているのは11台、368台。この2種類には誤差はない、と同室では言っている。