高校球児の「ほど」と「たしなみ」に癒される

2006年08月25日

 日頃は、母校へのご恩返しも忘れっぱなしのくせに、今回はさすがに心が熱くなりました。
 高校野球の決勝戦。早稲田出身の私としては、やっぱり早稲田実業を応援したい。
 かといってテレビ観戦しているわけにもいかず、重い腰を上げて某区役所に書類を取りに出かけました。申請書を出して、ロビーの椅子に腰掛けたら、なんとそこで試合を放送中。1回裏、早稲田実業の攻撃が始まるところ。普段の私でしたら、書類ができあがるのを待つ間にじれたりするのですが、この日ばかりは、「ゆっくりやっていいからね〜」と心の中で職員に向かってつぶやいていたのでした。
 なのに勤勉なるこの区役所の職員は、2回表にはもう書類を用意し、私の番号が掲示板に表示されてしまいました。仕方なく(?)書類を受け取り、外へ。その後別の所で用を足し、遅い昼食を取ろうと、おそば屋さんに入ると、やはりテレビがかかっていました。試合は8回に入ったところで、得点は4対1。
 やはり「ゆっくりでいいからね〜」と念じていたのに、もうとっくに昼時を過ぎて暇だったのか、お店の人も早く試合を見たいからか、おそばはすばやく出てきたのでした。その味はかなり○×△……というか、私の口には合わなかったのですが、どうせなら最後まで見たいと思い、ゆっくりゆっくり口に運び続けました。それでも半分がやっと。おそばの味はともかく、お店の人は親切で、長っ尻の客にお水のお代わりを注いでくれました。
 駒大苫小牧に2ランホームランが出てきた時には、ドキドキでしたが、田中選手を空振りに討ち取った時には、思わず腰が浮き上がりました。
 前日は同点で、再試合は1点差。力が拮抗しているチームが、まさに死力を尽くして戦う様は、本当に感動的でした。
 ただ、斎藤投手はなんと4日間の連投、それもフル出場で決勝戦の初日には15回も投げきっています。田中投手だって3連投。しかも、決勝戦は真夏の午後1時に始まり、もっとも暑い時間帯に試合をしています。再試合の前に、一日くらい休みを取ることはできないものでしょうか。雨のための予備日だって何日かはあるでしょうから、雨天中止の日がなかった今年は、一日休みを入れても、球場から追い立てを食らうことはないでしょうに。
 せっかくの人材が、これで肩でも壊したら……と高校野球連盟や朝日新聞社は考えないのでしょうか。
 テレビのニュース番組をハシゴしたり、翌日にコンビニにスポーツ新聞を買いに行ったりすれば、こうした教育や青少年の健全育成とはかけはなれた、主催者のやり方を認めてしまうのではないか、と頭では考えるのですが、それはそれ、これはこれで、やはり何度同じ場面を見、同じコメントを読んでも、そのたびにワクワクしたり、大きくうなずいたり……
 早実が勝った余韻に浸りたいのもありますが、本当にいいものを見せてもらったので、その感動を何度でも味わいたい、という気持ちが大きかったように思います。大会が終わった後、何日も続くこの後味のよさは、試合内容に加えて、その後の両校の選手の言動からくるものではないでしょうか。
 特に、最後の打者となった田中君。「自分のスイングができました。見逃しじゃなく、空振り三振で悔いはありません」ときっぱり言い切っています。そして、「向こう(斎藤)の方が数段上だと思いました。負けはしましたが、いい試合ができてよかったです」と早実の斎藤投手を讃えました。
 その斎藤君も田中君について、「ぼくたちの世代では最高の投手。でも、負けないように投げようと思いました」と語っています。
 お互いに敬意を払う、その態度が実に爽やか。
 しかも、壮絶な試合を終えて興奮したり落胆したり、いずれにしろ感情が先に立つような状況の中でも、仲間や先輩たちの思いに心を配っていました。かといって、へりくだりすぎるわけでもありません。「ほど(程)」がいいんですね。
 斎藤君は「(早実の)大先輩の王先輩、荒木先輩も達成できなかった夏の大会で優勝できて、とてもうれしいです。とにかく、仲間を信じて、部員全員を信じてマウンドを守ってきました」と語り、スタンドで声援をした人たちにも感謝の言葉を述べていました。その発言には、喜びと配慮がほどよく表現されていて、日頃テレビで適切なコメントができずに悔むことの多い私としては、聞きながらただただ唸るばかりでした。
 多くの野球名門校と違って、早実野球部は選手が寮生活ではなく、自宅通学のようです。そんな中、群馬県出身の斎藤君は大学生のお兄さんと一緒に暮らし、このお兄さんが食事を作ったり、例のタオルハンカチはお母さんの差し入れだとか、家族の支えもとても大きかったようですが、この家族もまた、出過ぎず引っ込み過ぎず、「ほど」がいい感じ。
 斎藤君の言動は、学校や監督などの指導もさることながら、ご両親やお兄さんの影響も大きいのではないかしら。
 連投について記者に聞かれた彼は、「こういう(頑丈な)体に生んでくれた両親に感謝します」と言ったそうです。常日頃から、そういう気持ちがなければ、こういう試合直後のとっさの時に、出てこない言葉でしょうね。
 田中君も「支えてくれたチームメートに感謝の気持ちでいっぱいです」と述べ、涙にくれるチームメートを笑顔で励ましていました。
 団体競技と個人競技、アマチュアとプロの違いはありますが、相手を愚弄し、どぎつい自己顕示ばかりをしたがる一家がもてはやされるのに辟易した後だけに、胸焼けが癒されたような、すっきり感があります。
 相手に対する敬意や「ほど」のよさは、監督も同様で、早実の和泉監督は「(昨秋)駒大苫小牧に負けて以来、駒大に強くしてもらった気がします。本当に強いチームでした。ぼくも毎年、あんなチームがつくれるよう努力します」と評価し、香田苫駒監督も「相手の方が一枚上でした」「準優勝も幸せだ」と語っています。
 こうした「ほど」のいい自己表現に、最近はあまり使われなくなった「たしなみ」という言葉が心に浮かんできました。これは決して付け焼き刃で身につけることはできませんし、独りでに備わるのも稀でしょう。斎藤君の言動を見聞きしていると、やはり子どもの時からの家庭での教育が肝心なのではないかな、という気がします。
 斉藤君だけではなく、彼を支えた捕手の白川君の態度にも、そうした「たしなみ」を感じます。
 一塁手の桧垣君は、大会で何を感じたのか、という質問にこう答えています。
「優勝して自分たちを見る目が変わると思うので、規則正しい生活をして手本になる人間になりたい」 
 甲子園は、私立高校にとって格好のPRの場でもあります。今回の早実は、優勝したこと以上に、試合や記者会見で一端を垣間見ることができた、選手たちの人品骨柄というか、人間性が、何より学校のイメージを向上させたのではないでしょうか。
 ただ気の毒なことに、斎藤君フィーバーが加熱して、疲れを癒すために実家に帰ることもできない状態とか。ファンの側の方も「たしなみ」をもって、「ほど」よい対応でいきたいですね。

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