朝青龍問題の違和感

2007年08月09日

 朝青龍を巡る報道がスポーツ紙や夕刊紙を賑わせている。
 鬱病寸前で医師がモンゴルへの帰国を勧めたとか、イヤその診断は果たしてどうなのかとか、相撲協会はモンゴル帰国は認めないとか、そういう時は汗をかきゃいいんだとか……
 でも、肝心の朝青龍本人の発言が全然出てこないので、本当はどういう状況なのかよく分からない。 
 疲労骨折で6週間の重傷だからと巡業をサボって、モンゴルでサッカーに興じているのがばれ、慌てて戻ってきたのが先月30日。相撲協会に出向いて謝罪をし、報道陣に「反省しています。日本で治療して来場所から頑張ります」と仏頂面で答えて、それっきり引きこもったままのようだ。
 相撲界の頂点に立つ者の自覚が云々という前に、私は直接自分の利益にならないことはやらないという彼の了見が気に入らない。プロ野球だって、チームの4番打者が、ファン感謝デーに体調が悪いからと行って休んでおきながら、よそでサッカーに興じていたら、ファンをないがしろにしていると叩かれて、処分を受けるだろうに。やはりお客さんあってのプロのアスリートという意識がなさすぎる。というわけで、2場所出場停止という結論も、重すぎるとは思わない。
 ただその一方で、この間の相撲協会の対応や高砂親方の態度にも、なんだか違和感を覚えて仕方がない。
 殺人事件の容疑者だって、取り調べにあたっては弁明の機会が与えられ、弁護人がつき、裁判でも被告・弁護側の証人尋問も行われる。
 で、朝青龍の場合はどうだったろうか?
 相撲協会が緊急理事会を開いて処分を決めたのは8月1日。30日に北の湖理事長に20分ほど会って謝罪をしたと報じられている以外、処分を下すまえに、朝青龍側の弁明を聞く機会はなかったようだし、朝青龍側の立場を弁護する存在もなかったようだ。せいぜいモンゴル政府と一緒にサッカーをしていた中田英寿からの書面が届いたくらいで、検察側だけが出席した裁判同様の即決判決。
 朝青龍が落ち込んでこのままだと鬱病を発症しそうだと報じられても、相撲協会は診察した医師を呼んで事情聴取するでもなく、聞こえてくるのは「汗を流せば治る」などの精神論ばかり。本当に心の病であれば、気合いだけじゃ治らない。なのに、そういう相撲協会を批判する論調もメディアには出てこない。
 相撲協会が厳しい処分に踏み切ったのは、白鵬の存在がある、という指摘もある。横綱が二人となり、そのうえ琴光喜が大関になって久々に日本人力士の活躍が話題になったばかり。朝青龍の存在感は、前に比べて薄くなった。だから…というのも、なんだかなあ……
 適正な手続きというのは、もちろん間違った判断を防ぐためというのもあるけれど、本人が納得して罰を受けるためにも必要ではないだろうか。だからこそ、刑事裁判では現行犯逮捕で明らかに犯人だと分かっている被告人であっても、ちゃんと順序を踏んで、本人の言い分もちゃんと聞くことになっている。そういう手続きが、相撲協会の処分にはまったく欠けている。とにかく一刻も早く厳しい処分をするということしか頭にないみたいだった。
 そのうえ、高砂親方という人は、弟子が重い処分を受けた後も、会って励ますでもなく、じっくりと今後を語り合うわけでもない。親方が朝青龍に会ったのは、処分からなんと5日も経った6日午後。わずか30分ほど自宅を訪問したのだという。
 「かなり憔悴していた。ボーッとした感じだった」そうで、「頑張ろう」と親方が話しかけても、横綱から返事が帰ってくることはほとんどなく、うなずくようなしぐさを見せるだけだった、とのこと。そこまで放っておくなんて、それでもあなたは師匠なの?
 しかも、協会が紹介した精神科医が「急性ストレス障害」と診断したのに、親方は「(理事長に)診断書は見せない。私と朝青龍の問題です」と、自分がすべて解決するようなことを言っているらしい。相撲協会の中からも、「高砂親方がおかしい」という声が出始めると、今度は2度目の面談を行い、「記者会見をしろ」などと朝青龍を説得したが、「失敗した」と弁明した。
 こういう問題が起きてすぐに本人と親方二人そろって謝罪会見を開き、本人ともしっかり話し合っていれば、周囲の怒りも少しは収まり、本人も前向きに今後のことを考えられたかもしれない。そう考えると、この親方のやることなすこと、本人の立ち直りや社会的責任とは逆行している感じがする。
 結局この親方は、弟子の心配をするより、自分の立場を守ろうと汲々としているのではないか。少なくとも、私にはそう見えてならない。これじゃあ朝青龍だって親方に信頼なんて持てないだろうし、孤立感を深めているだろう。こういう人に、多くの若者を預かる指導者の資格があるんだろうか、とさえ思ってしまう。きっと、朝青龍がここまで”悪ガキ”に育ってしまったのも、この親方に一因があるんだろうと、今回の対応を見ていて納得してしまった。
 朝青龍としてみれば、弁明も聞いてもらえず、かばってくれる人もなく、そのうえ親方も親身になってくれるわけでもない。犯罪者以下の扱いをされれば、3年半もの間一人横綱として相撲界を支えてきた自分のすべてを否定されたような気になって、落ち込みもし、いじけもするだろう。これまでチヤホヤされてきた分、手のひらを返したような扱いに、ショックを受けているのかもしれない。
 身から出たさびと言えばそれまでだし、私も朝青龍の態度はどうしても好きになれない。できることならちゃんと反省して、また強い横綱として復帰してもらいたいが、プロレスとかK−1とかの格闘技に転向するなら、それはそれでいいかもしれない。あのヘディング・シュートを見ていると、身体能力はかなり高そうだし、曙のような無様なことにはならないだろう。あるいは、ビジネスに専念してしっかり稼ぐ道もあるだろう、と冷めた気分でいる。
 とはいえ、相撲協会と親方の対応は、そりゃあないんじゃないか、と思う。その違和感は日に日に強まるばかりだ。テレビでコメントを求められても、「だから相撲って…」と言いそうになってしまう。
 今回の朝青龍問題の影響で、マスコミが大相撲の夏巡業を報じる機会はいつになく多い。注目されて張り切っているのか、個々の力士に「俺たちががんばらなきゃ」と自覚が芽生えたのか、テレビの画面を通して見る限り、なんだか活気が出てきて、ファンサービスも活発だ。
 こういうのを、けがの功名と言うのだろう。これをきっかけに、相撲界が変わってくれればという気もするが、果たしてあの相撲協会ではどうだろう……あまり期待しないで見守っていることにしよう。
 

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