犬を「盗む」

2008年07月20日

 先日の「やじうまプラス」の最後のコーナーで、報知新聞のこんな記事が取り上げられた(もしかすると通信社が配信した記事かもしれない)。
 
<3年前に他人の飼い犬を盗もうとして逮捕され、刑務所から出所したばかりの男が、再び同じ犬を盗んで御用となった。動機について「1人で寂しいから犬を盗んだ」と語っているという。
 愛知県警中川署は16日までに常習累犯窃盗の疑いで住所不定、無職の小林××容疑者(43)を逮捕した。調べでは、同容疑者は6月21日夜から22日夕にかけ、名古屋市中川区の男性会社員(53)の車庫内につながれていた飼い犬のコーギー(雄・12歳)を盗んだ疑いを持たれている。
 小林容疑者は2005年3月、この会社員宅から同じコーギーを盗もうとして見つかり、逮捕。今回は犯行の2日前に出所したばかり。調べに対し「自分はひとりぼっち。寂しいから同じかわいい犬を盗んだ。犬はえさを与えるだけでなつく」などと供述しているという。>
 
 う〜ん。犬って、「盗む」もんなんでしょうか……
 アナウンサーが「盗んだ」と読み上げるたびに、その言葉が引っかかって仕方がなかった。
 確かに法律上は、「器物」扱い。
 だから、警察が逮捕容疑として発表している<調べでは……………盗んだ疑い>までは仕方ないにしても、小林容疑者自身が「犬を盗んだ」なんて言っているんでしょうか?
 このカギカッコで紹介されている供述内容も警察が発表しているわけで、要するに記者は横書きの警察発表資料を縦書きに直しただけではないかしらん。ちょっと安直なお仕事、という気がしなくもなかったりして……。
 「寂しいから」とか「かわいい犬」と容疑者が言っているのだとすれば、自らの行為につては「盗んだ」ではなく「連れ去った」とか「連れて行った」と述べているだろう。一方、犬の本来の飼い主にしてみれば、「盗まれた」ではなく、「誘拐された」「犬さらいに遭った」という気持ちだと思う。
 犬に限らず猫にしても、家族の一員という感覚で一緒に暮らしていることが多く、事件の当事者だけでなく、新聞やテレビの読者視聴者の中にも、「盗む」という表現に私と同じような違和感を覚えた人は少なくないのではないか。
 
 そういえば、コーギーを「盗む」事件の数日前、同じ名古屋市でこんな事件も起きている。
 
<飼い主と散歩中だった生後4カ月のチワワをけり殺したとして、愛知県警千種署は15日までに、名古屋市千種区××××、会社員、田中××容疑者(44)を器物損壊容疑で逮捕、送検した。「犬が恐かった」と供述しているという。
 調べでは、田中容疑者は13日午後4時50分ごろ、千種区覚王山通9の歩道で、同区の男性会社員(40)が連れていたチワワの腹部を1回けりあげ、内臓破裂で死なせた疑い。後ろにチワワがいるのに気づくと、突然振り返り、無言でけったという。そのまま立ち去ろうとしたが、通行人の男性(47)に取り押さえられた。
 チワワは体高約20センチ、体重約2キロだった>(毎日新聞)
 
 かわいそうなチワワ。それに男性会社員さん。
 リードもつないであったし、特に吠えたわけでもないらしい。それでも「犬が怖い」なら、道の反対側を歩けばいいわけで、何も蹴り殺すことはないでしょうに……。
 ここでも、やっぱり犬は「器物」扱い。
 動物愛護法には<愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する>という規定があるものの、この法律ができた後も、「所有者」のいる動物は「財産」として扱われ、より重い刑罰がある器物損壊罪が適用されている。
 ただ、その器物損壊罪も最高刑は懲役3年で、窃盗罪の懲役10年より軽い。
 コーギー犬を「盗んだ」小林容疑者は、前回は2003年3月に捕まって、有罪判決を受け、今年の6月19日に出所したばかりだった。いくら累犯だとしても、犬を「盗んで」5年以上”ムショ暮らし”をするのに、犬を「損壊=殺害」しても最高刑が懲役3年。やっぱり解せない。物にしても、壊す方が盗む方が壊すより責任が軽くていいのだろうか、という疑問があるが、とくに動物の場合、ひとたび「損壊」=殺害してしまえば、修復は永遠に不能なわけで、その罪は「盗む」以上に重くて然るべきではないのか。
 そろそろ動物愛護法を改正して、動物殺傷罪の最高刑を引き上げるとともに、「所有者」のいる動物の「連れ去り」については動物略取誘拐罪、将来の事件に備えて身代金目的動物誘拐罪、身代金目的動物誘拐殺傷罪を整えておいた方がいいような気がする。

 ところで、犬に関する事件報道というと、よく「犬が人を咬んでもニュースではないが、人が犬を咬んだらニュースだ」という言い回しが、今でも使われる。
 陳腐であるばかりでなく、実態にも即していない、こういう常套句は、そろそろ死語にしてもらいたい。今日、犬が人を咬んだら、立派な(?)ニュースになる。
 たとえば、今年の読売新聞によれば…。 

<福岡県宮若市で、逃げた飼い犬が通行人にかみついて大けがをさせた事件で、県警宮若署は1日、飼い主で同市内の養鶏業の男性(57)を重過失傷害容疑で福岡地検飯塚支部に書類送検した。>(4月2日付)
<23日午前8時45分ごろ、福岡県水巻町××××、同町産業建設課長○○○さん(57)方で、○○さんが犬用のおりの中で飼い犬の土佐犬にかまれて倒れているのを通行人が見つけた。同居している○○さんの父親(81)が知らせを受け、助けようとおりに入ったところ腕をかまれ、近くで建設作業をしていた北九州市八幡西区の建設業男性(33)と福岡県芦屋町の会社役員男性(51)が2人を助け出し、119番した。
 県警折尾署の発表などによると、永沼さんはのどや腕などをかまれ、外傷性ショックで死亡。父親は重傷で、救助した2人もかまれて軽傷を負った。>(6月23日付)
<30日午後5時5分ごろ、愛知県長久手町作田の仲作田公園で、同町の男性会社員(41)の二男の保育園男児(3)が水飲み場で水を飲もうとしたところ、中型のシバ犬(雄10歳)にかまれた。犬は近くでドッジボールをしていた長女の小学5年生の女児(10)にもかみつき、駆けつけた同町の男性職員(35)ら8人に約50分後に取り押さえられたが、二男と長女は手や足に7日間の軽傷を負った。
 県警愛知署の発表によると、この犬の飼い主は、公園から約200メートル西の名古屋市名東区に住む無職男性(62)。男性は自宅敷地内で、犬を放し飼いにしており、同日午後3時半ごろ、妻と買い物に出かけた際に、門扉をきちんと閉めていなかったらしい>(7月1日付)
<17日午後4時20分ごろ、山口県周南市小松原の島田川河川敷で、近くの小学5、6年の男子児童3人が、シェパードに胸や足などをかまれた。
 県警光署の発表によると、5年生(10)が足や背中に1か月の重傷を負ったほか、6年生(12)が腹などに2〜3週間、5年生(10)が肩、足などに2週間のけが。3人は水遊びをしていた。
 犬にひもなどはつけておらず、同署は県飼犬等取締条例(係留義務)違反の疑いで、飼い主の2人から事情を聞いている。 >(7月18日付)

 動物が人を傷つけてしまうのは、その「所有者」の責任。野犬の場合は、それを放置した行政の責任が問われ、だからこそニュースになる。過去には、散歩中の犬が幼い子どもを噛んで重傷を負わせた事件で、飼い主が重過失傷害罪に問われて懲役2年4月の実刑判決を受けた事例もある。
 
 人が犬を咬んで大けがさせたり殺したりすれば”器物損壊”として報道されるのだろうが、実例は記憶にない。ただし、少なくとも人が犬を「盗んだ」り蹴り殺せば、新聞でもテレビでもインターネットでも報じられるニュースになることは、名古屋の2事件で分かった。
 で、その「盗まれた」コーギー犬だが、日刊スポーツ紙にこんな続報があった。

<約3年前に名古屋市の民家から飼い犬を盗もうとして逮捕された男が、刑務所を出所直後に同じ犬を盗んだとして7月に窃盗容疑で逮捕された事件で、盗まれ行方不明だったコーギー(雄、12歳)が、無事保護されていたことが18日、分かった。
 愛知県警が犬を盗んだとして住所不定、無職小林××容疑者(43)を逮捕したと16日に発表した際に公表した犬の写真を見た人から同日、通報があった。犬は、小林容疑者が銭湯に行っている間、近くの住宅につながれていたが逃げ出したとみられる。近所の住民が餌をやっていたようで元気だという。>

 よかった。
 小林容疑者は、今度出てきたら、無責任な人間のせいで殺処分をされる犬猫が集められている動物管理指導所に行って、気の合いそうな犬を引き取ったらいいかもしれない。それで犬の命がひとつ救える。ただ、その前に「住所不定」を何とかしないと、難しいかもしれない。それに、彼が事件を繰り返すのは、犬好きとは別の事情がありそうな気もする。そこを置き去りにしたまま、メディアが犬を「盗む」行為だけをクローズアップするのは、どんなものだろうか……
 
 ところで、犬に比べて、猫は刑事事件の当事者としてニュースになる機会はあまりない。
 確かに猫の場合、第三者に重傷を負わせる加害者となる心配は少ない。とはいえ、タレとチビのように特別かわいい猫は(←親バカ丸出し)、連れて行きたいと考える輩が出てきてもおかしくない(?)かも。万が一にも「盗まれ」たりしないよう、しっかり戸締まりしておかなくては(*^_^*)

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