草君御難

2009年04月26日

 彼が世間を騒がせたというより、世間が勝手に騒いだ、という感じだ。
 
 かつては、警察にトラ箱というのがあった。酔って正体をなくした人を一時的に保護する施設だった。彼も、そういう時代だったら、酔いが覚めるまでトラ箱入りし、その後お巡りさんにたっぷり説教されて終わり、だったろう。
 今だって、人気タレントの「草剛君」でなければ、留置場に2泊もすることはなかったろうし、家宅捜索などということにはならなかったはず。尿検査で薬物反応が陰性なのに家宅捜索までやるなんて、警察はいくら何でもやりすぎだ。それに、この程度のことを、いちいち発表する必要があるのか、とも思う。

 メディアの反応もすごかった。二日も東京上空にヘリが回遊し、スポーツ紙や情報番組だけでなく、一般紙の一面に載りNHKでトップ・ニュースとして報じられた。
 しかし、あそこまで大騒ぎして報じるほどの”事件”ではなく、彼を「容疑者」よばわりをする必要もなかったと思う。
 決して褒められることではないが、誰かを傷つけたわけでもないし、飲酒運転や薬物使用などのように明らかに順法精神に欠けた行為でもない。大声で安眠を妨げられた人がいたらしいから、そういう迷惑をかけた人に謝って反省すれば、それでいいのではないか。酔って道路や電車の中で吐きまくる御仁より、彼のやったことの方が、迷惑の程度としてはずっと少ないと思うけれど。
 それに、有名人の不祥事の報道を見る度に思うのだが、「大人としての自覚」を問うほど、メディアの人間は品行方正なのだろうか。特に酒に関しては、体質的に一滴も受け付けない人はともかく、それなりに飲める人の中で、恥ずかしい失敗経験がない、という人がいたらお目にかかりたい。少なくとも私はある。それも、いくつも。

 そういう過剰反応の中でも、突出して目立っていたのが鳩山邦夫総務大臣。草さんが地上デジタル放送推進メーンキャラクターを務めていることについて、「めちゃくちゃな怒りを感じている。なんでそんな者をイメージキャラクターに選んだのか。恥ずかしいし、最低の人間だ。絶対許さない」と怒りを露わにした。
 酔って閣議に出たり、宮中晩餐会で悪酔いして騒ぎを起こしたり、挙げ句にG7の記者会見に酩酊状態で現れて世界的に醜態をさらした中川昭一前財務大臣の方が、よほど問題だと思うが、鳩山氏は「なんでこんな最低の人間を財務大臣に選んだのか」と首相批判をしたかしらん
 これは言い過ぎだとの抗議が寄せられると、「最低の人間」という言葉は撤回したが、代わりに「最低最悪の行為」と言った。飲み過ぎて誰もいない真夜中の公園で裸になった程度のことが「最低最悪の行為」か? 親が子どもを虐待したり、市長が賄賂を受け取ったり、警察や検察や裁判所が無実の人を犯人に仕立て上げたり……遙かにひどい行為は、毎日のように起きている。総務大臣の前に法務大臣として13人の死刑執行を命じた時に、彼らが犯した罪の記録を読んで、「最低最悪の行為」とはいかなるものかを知ったはずだが、もう忘れてしまったのだろうか。
 子どもたちに対する教育のうえでは、草さんの行為より、一度失敗をした者に対して、こういうレッテルを貼って罵倒する鳩山総務相の行為の方が、ずっとよろしくない、と思う。
 
 地デジのイメージキャラクターも止めさせるつもりらしいが、なんでそこまでの強い反応を示すのかがよく分からない。
 国民が特に望んでいるとも思えない地デジへの移行が国策として決まり、多額の税金を投入して、私たちにテレビの買い換えを求める広報キャンペーンも行われてきた。せっかく全国に張ったポスターをはがし、新たに印刷し直し、PR用フィルムも撮影し直すとしたら、おそらくは億円単位の税金が新たに費やされることになる。つまらぬ内規を理由にワッペンの作り直しをした東京都の職員について、石原都知事が「バカじゃねえか」と言ったが、新たに地デジのポスターなどを作り直すのも、同じくらいバカバカしい。
 国民が今回の一件で草さんに反感を持ったのなら降板も分かるが、アンケートでも私の周りでも、同情的な声の方が圧倒的に多い。
 「騒ぎになった償いに、しばらくはノー・ギャラで出てもらうよ」くらいでいいのではないか。
 日本は、政府の選挙目当てのばらまきで、それでなくても借金まみれの財政を抱えているというのに、これ以上無駄に税金を使わないで欲しい。

 ところで、このような大ごとになったのは、芸能オンチの私でさえ知っているほど彼が有名人だったためだが、特にメディアの過剰反応の背景には、所属事務所の問題もあるような気がしてならない。
 ジャニーズ事務所というところは、所属タレントの扱いについて、メディア、特にテレビ局に対して要求が多く、権利についての主張が強く、情報コントロールも厳しいところと聞く。事務所が望まないような扱いや論評をすれば所属タレントを出さないという圧力がある、との噂も聞く。だからだろう、テレビ局はここのタレントに関しては、異様なまでに気を遣う。明らかに他とは特別扱いだ。情報番組でも、私のように何を言い出すか分からない外部のコメンテーターには、ここのタレントについての話題(特に不祥事)については、まず喋らせない。
 芸能ネタを扱っている番組やレポーターたちは、知っているのに喋れないことが相当ありそうで、フラストレーションは溜まりに溜まっていると思う。だから、ひとたび警察が逮捕、などというニュースが飛び込んできて、一挙にたがが外れたのではないか。今回に関しては、テレビ局の判断で報じるのではなく、警察の発表を報じるという大義名分があるのだから。
 日頃から、酒の上での失敗なども小出しにされていれば、「あの真面目な草君が!」とビックリ仰天することもなく、「あ〜ぁ、やっちゃった」程度に受け止められ、それほどビッグ・ニュースにはならなかったような気もする。
 本人だって、いつも真面目で理想的な「いい人」でいなければならないのは、疲れるだろう。時に羽目を外したくなるのではないか。
 釈放されて、すぐに謝罪会見に臨み、自分の口で説明や謝罪をしたし、彼はすでに、やった行為以上の罰を受けている。不祥事に厳しい事務所のイメージを維持するために長期の謹慎を課す、などいうようなことがないように、と思う。これ以上の罰を与えるのは、あまりにも可哀相だ。

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